第37話


俺が冒険者となってから1ヶ月ぐらいが経過した。


「結構ランク上がったな…」


俺は自分の冒険者ランクや個人情報が記載された手元の冒険者カードを見ながらそう独りごちた。


我ながら結構上手くやった方だと思う。


今から一月前、冒険者講習を受けてガレスに合格判定をもらい、俺は晴れて冒険者となった。


冒険者にはランクというものが存在し、冒険者になったばかりの俺はEランクの初級冒険者からのスタートとなった。


冒険者になってみてまず最初に分かったのが、冒険者はなっただけでは稼げない職業ということだった。


初級冒険者の俺が受けられるクエストは非常に限られており、下水の掃除とか、家の警備とか、荷物運びとか、ほとんど雑用みたいなクエストばかりだった。


初級冒険者はまずこういう疲れるばかりで稼げないクエストをたくさん受けてギルドの信用を勝ち取り、ランクを上げていく必要があるらしい。


本格的に冒険者活動が金になり始めるのは中

級冒険者からだそうだ。


まぁ前の街で貯めた貯金があるし、安宿に泊まって節約もしている。


稼げるようになるまでじっくりやっていこうとそんなことを思っていた俺の元へ耳寄りな情報がもたらされた。


「小僧、みない顔だな。新入りか?」


冒険者ギルド内にあるクエスト掲示板で、初級冒険者用のクエストを選んでいるときに俺に話しかけてきた爺さんが、とても役に立つ情報を俺に教えてくれたのだ。


「何か困っていることがあるなら相談に乗るぞ。何せ俺は、昔はそれなりに名の通った冒険者だったからな。両手剣のラーズとは俺のことよ」


「実は冒険者ランクを早く上げたくて…」


「なるほど…それならいい方法がある。とりあえず酒を奢れ。話はそれからだ」


「はい…」


最初は半信半疑だった俺は、昔は有名な冒険者だったと自称する老人ラーズに酒を奢り、彼の自慢話に耳を傾けた。


老人ラーズはまず俺に何杯か酒を奢らせ、昔の自慢をした後、酔い潰れそうになった直前でやっと俺が欲しかった情報をもたらしてくれた。


「冒険者ランクをぉ……上げたかったらよぉ…おめー……そりゃよぉ……上級冒険者のパーティーに取り入ることだなぁ……」


「上級冒険者のパーティーに?」


「そうだよぉ……特に重宝されんのが、回復魔法使えるやつだなぁ……時点で力持ちで足の速い荷物持ちってところかぁ……ギルドに信用されてる連中と大型クエスト数回こなせばぁ……ランクなんてすぐ上がるってもんよ…」


「おぉ…」


老人ラーズによると、どうやらギルドには冒険者評価システムというものが存在し、上級冒険者たちのパーティーに臨時メンバーとして加われば、評価が上がり、冒険者ランクがすぐに上昇するらしい。


老人ラーズによれば、回復魔法使いは希少で、かなり求められる人材らしい。


「回復役が足りていない上級冒険者パーティーの情報とか、知りませんかね?ラーズさ

ん?」


「あぁー?そんなの知ってるに決まってんだろぉ?俺を誰だと思ってんだぁ?」


「よっ、さすがラーズさん。とりあえずビールもう一杯、それから料理も注文してきま

す!」


「へっへっへっ、分かってんじゃねーか、小僧」


俺は老人ラーズにさらに酒を調理を奢り、回復役が最近抜けて困っているという上級冒険者パーティーの情報を聞き出した。


そしてその上級冒険者パーティーに対して、売り込みをかけた。


「なんだお前」


「初級冒険者ぁ?」


「本当に回復魔法が使えるのか?」


初級冒険者の俺を最初は疑いの目で見ていた彼らは、実際に俺が回復魔法を実演してみせるとすぐに臨時メンバーに加わってくれと向こうから頼んでいた。


俺は彼らと何度かクエストを共にして、回復役として彼らの傷の治療を担当した。


主に戦闘を担当するのは彼らであり、俺は後ろで回復魔法が必要になるまで見守っているだけで良かったのだが、それでも危険がないわけじゃなかった。


上級冒険者パーティーの受注するクエストは非常にハードで、どこに危険が潜んでいるかわからない。


度々強力なモンスターと戦闘を余儀なくされる彼らについていくのは、戦いに巻き込まれるリスクと隣り合わせだ。


実際にクエスト中に敵のモンスターの余波に巻き込まれそうになったり、群れに囲まれて命からがらなんとか逃げ出したこともあった。


豚の頭を持ったモンスター……オークというらしい……の群れに森の中で囲まれた時はどうしようかと思ったが、ここでも前の街で三人の掃除屋から逃げ延びた時の回避能力が生

きた。


俺はあちこちから迫ってくるモンスターの攻撃を掻い潜り、なんとか他のメンバーと共にその場を切り抜けたのだった。


「お前すげーな…」


「治癒魔法の威力は申し分ない…」


「それなりに動けもする」


「お前みたいな俊敏な回復役は初めてだよ」


「ありがとうございます」


俺は最初に売り込みをかけた上級者パーティーに認められ、何度かクエストを共にした。


老人ラーズに言われた通り、彼らとたった数回クエストに行っただけで、ランクはすぐに上がった。


「あの……出来れば俺の回復魔法のことはあんまり広めないでいただけると…」


「どうしてだ?」


「説明するのは難しいんですが……」


「まぁ分かった。事情があるんだろう」


「ありがとうございます」


「というか、あまり積極的に広めたくはないな。お前みたいな使える初級冒険者なんて見たことない。広まれば、きっと引っ張りだこの人気者だろうからな」


俺は臨時メンバーに加えてもらった上級冒険者パーティーにあんまり回復魔法のことは広めないでくれと釘を刺しておいた。


一応、老人ラーズに聞いてこの街に上級回復魔法を売りにしている神官様のような権力者はいないことは確認済みだ。


しかし、出る杭は打たれるというし、あまり目立ちたくはなかった俺は、人前で大体的に回復魔法を使うなどのことは避けていた。


しかしそれでも噂とは広まってしまうものだ。


冒険者ランクが上がっていくにつれて、俺にかかる声も増えていった。


「あんたが噂の男か?」


「回復魔法が使えるんだろ?」


「あたしら、ついこの間回復役が抜けて独立しちまってよ、臨時メンバーになってもらいたいんだが…」


この街でも回復魔法使いというのは希少らしい。


気づけば俺はさまざまな上級冒険者パーティーの連中に気に入られ、臨時メンバーとして彼らのクエストに同行することが多くなった。


皆総じて俺の回復魔法の威力と俊敏さを誉めてくれた。


加護のおかげで上級冒険者たちに体力負けしないのも、彼らにとってはありがたいらしい。


回復役というのは大抵が戦闘力、体力において前衛冒険者たちに劣っており、回復役の能力によって行動量もかなり制約を受けるらしい。


俺の場合、それがないので非常に楽だと言われた。


まぁ大体そんな感じで俺は順調に冒険者ランクを上げていき、気がつけば中級冒険者と呼ばれるBランクにまで到達していた。


このぐらいのランク帯になってくると、それなりに実入りのいいクエストを受注できるようになってくる。


いつまでも他のパーティーに頼るやり方ではなく、そろそろ独り立ちをするときかもしれない。


でも自分でクエストを受けるとなると、戦闘も自分でこなさなければならない。


イレーナやガレスにポテンシャルはあると言われた俺だが、正直モンスターと一人前に戦っていけるかどうか不安だ。


いきなり高難易度のクエストを受けるのではなく、まずは簡単なクエストに挑戦するか。


それとも誰かに頼んで戦闘を教えてもらうか。


「次のクエストで戦闘に参加させてもらうのも手か……」


いつもクエストでは上級冒険者冒険者たちに守ってもらっている俺だが、彼らに頼んで戦闘に参加させてもらうのもありかもしれないとそんなことを思ったのだった。

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