第16話
「どうして治療依頼者が減っているのだ?」
この街に住む人々のほとんどが信仰しているオルリス教。
その御神体がある神殿は、街の中心地に聳え、堅固な壁によって守られていた。
そのオルリス教の神殿に神官として務めているエーデルトは、頭を悩ませていた。
最近、神殿にエーデルトの治療を求めてやってくる依頼者が減っているのだ。
エーデルトはこの街最高の治癒魔法使いを自負していた。
彼はこの街で唯一最上位の回復魔法、ハイヒールを使うことのできる魔法使いであり、生半可な治癒魔法では癒すことのできない深い傷を負った戦闘職が、エーデルトの治療を求め神殿を訪れていた。
エーデルトは一度の治療につき、金貨100枚という大金をせしめていた。
これは一度の治療の料金としては法外もいいところであり、大抵のものには払うことはできない。
成功した冒険者、地位の高い騎士、大商人、あるいは貴族といった金を持つものしかエーデルトの治療を受けることは出来なかった。
「お願いします、エーデルト様。治療費をもう少し下げていただけませんか」
そう頼まれたことは何度もあるが、エーデルトは決して治療費を下げることはなかった。
この街にハイヒールを仕える魔法使いは自分だけだと知っているので、治療費を下げずとも深い傷を負った魔法使いはエーデルトに助けを求めるしか選択肢がないことを彼は知っていたのだ。
「絶対にダメだ。治療費を下げることは出来ない。金を払えないのなら、他の治癒魔法使いを尋ねるがいい。まぁその魔法使いがその深い傷を治せるとは限らんがね」
結局エーデルトの元を訪れるほどに深い傷を負ったものは、最終的には借金をしてでもエーデルトの治療を求めることを彼は知っていた。
法外な治療費のおかげでエーデルトは大いに私腹を肥やしていた。
そして神官と言う地位があるため、誰もエーデルトのやり方を咎めることは出来なかった。
エーデルトは神聖な神官という立場でありながら、人々から金を巻き上げ、私腹を肥やし、それを象徴するようにその体は贅肉に溢れ、丸々と太っていた。
「わしはこの街の王も同然よ。誰もわしに逆
らえない、口出しできない。愉快なものだ」
エーデルトは日々、法外な治療費で巻き上げた金を使って贅沢の限りを尽くしていた。
そしてそんな生活がこの先もずっと続くものだと信じて疑っていなかった。
だが、ここ最近奇妙な異変が起こっていた。
エーデルトの元を訪れる治療依頼者がめっきり減ってしまったのだ。
この街は冒険業が盛んで、さまざまな戦闘職を生業にする人間が住んでいる。
ゆえに怪我人も多く、エーデルトの元を訪れる依頼者が途絶えたことはなかった。
だがここ最近、目に見えてエーデルトの治療を求めて神殿にやってくる者が減っていた。
「一体どう言うことなのだ…?ハイヒールを使えるのはわしだけだ。これまでわしを頼っていた連中は一体どこにいってしまったのだ…?」
このままだと贅沢の限りを尽くす生活が終わりを迎えてしまう。
エーデルトは蓄えたお金が減っていくのみの現状を看過できず、神殿に勤める配下の者たちに命令して街の調査をさせた。
「何かわかったか?なぜわしの元を訪れる依頼者が減ったのだ?」
「エーデルト様、ご報告します。ある男が、エーデルト様の元を訪れるはずの依頼者を横取りしているようです」
配下に調査をさせた結果、ある男の存在が上がった。
そのものは、現在冒険者ギルドに専属治癒魔法使いとして飼われており、その男がギルドの冒険者や外部の戦闘職の者たちの怪我の治療をしていると言うことだ。
配下の者たちによれば、その男こそが、エーデルトの依頼者を奪い、利益を掠め取っている張本人だと言うのだ。
「信じられん……わし以外に最高位の回復魔法を使えるものが…?」
エーデルトは自分以外に最上位の治癒魔法を使える魔法使いが現れたことに驚いていた。
「どうされますか、エーデルト様」
「…このままにはしておけない…由々しき自体だ……神官であるわしの存在意義を奪うとは…不届きものめ…」
エーデルトの口元が憎しみに歪んだ。
このまま放っておけば、エーデルトの贅沢な生活は終わりを迎え、神官としての存在意義も奪われてしまう。
そうなる前に、どんな手段を使ってでもその男を排除しなければならないとエーデルトは考えた。
「消えてもらわなければならない…この街はわしのものなのだ……わし以外に最高位の治癒魔法を使える魔法使いなど存在してはならぬ…」
「それでは、エーデルト様…」
「うむ……掃除屋を雇え」
「御意に」
エーデルトは、自分の代わりに戦闘職たちの大怪我を治療しているというその冒険者ギルド専属の治癒魔法使いを始末することにした。
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