第17話
「ふぅ…今日も働いたなぁ」
冒険者ギルド内の俺専用の仕事部屋で、俺はグッと伸びをした。
長い1日が終わった。
今日もたくさんの冒険者や戦闘職たちの怪我を治療した。
基本的にこの部屋へ治療を求めてやってくるのはこのギルドに所属している冒険者なのだが、最近はこのギルドに所属していない戦闘職の人たちも俺の治療を求めてやってくる。
マテウスからはなるべく冒険者ギルド所属の冒険者を優先してほしいが、冒険者の治療が滞らない範囲で外部からの治療依頼も受けていいと言われている。
なので俺は一定の料金を貰い、外部の戦闘職たちの治療依頼も受けるようにしているのだ。
「あんたがいてくれて本当によかった。まさに命の恩人だよ」
「それは大袈裟じゃないですか?」
「いいや、大袈裟じゃないさ。あんたレベルの治癒魔法を受けるとなると、他には神殿の神官様に頼むしかないからな。けど神官様の治療を受けるには金貨100枚ぐらいが必要になる。とても一般人には払えない」
「き、金貨100枚!?」
これはとある外部からの治療依頼者から聞いた話なのだが、神殿の神官様とやらは俺と同じことをして人々から金貨100枚という大金を巻き上げているらしい。
その人によれば、金貨100枚を払えるのは名の売れた冒険者か、大商人か、あるいは貴族ぐらいなもので、それ以外の人たちは大怪我をしたとしても金が払えずに治療を受けることができないらしい。
中には命に関わる怪我をして早急に治癒魔法を受ける必要があったが、神官様とやらば治療費を下げる交渉日応じず、最終的に借金をして治療を受けた。
だがその後その依頼者は借金を返済することができずに奴隷落ちしたらしい。
神官といえば神聖な職業かとなんとなく思っていたが、この世界の聖職者たちはなかなか悪どいことをする連中のようだ。
「だから、あんたがこの街に来てくれて救われた奴が大勢いるんだぜ。みんなあんたに本当に感謝してる」
「役に立てているのならよかったですよ」
俺はそう言ってその人に笑顔を浮かべた。
その人は何度もお礼を言って去っていった。
「金貨100枚かぁ…」
そんな金額でも治療を受けようとする人間がいるってことは、やっぱり威力の強い治癒魔法ってのはこの世界で希少価値が高いんだな。
となると逆に俺は自分の治癒魔法を安売りしすぎではないのかと思ったりもする。
これまでいろんな依頼者を治療してきた肌感覚でいえば、もう少し治療費を上げたとしても多分客は来るんだろう。
「いや…別に今のままでも十分稼げてるし
な」
そもそもギルドから俺に支払われているお金だけでも十分潤っている。
欲を出して、敵を増やしてまでお金を稼ぐ必要はないと俺は思っていた。
何よりも俺は多くの人に必要とされていると言うこの状況が嬉しかった。
前の世界では上司に何度も「お前の代わりなんていくらでもいる」と怒鳴られていたからな。
あそこでは俺は、社会を回すための変えのきく歯車でしかなかった。
でも今は、多くの人が俺を必要としてくれている。
その状況だけでも俺にとっては非常にありがたく、やり甲斐があるのだ。
「さて…帰りますか…」
1日の仕事を終えて充足感に包まれていた俺は、そのまま帰り支度をしてギルドを出る。
「あっ、お疲れ様です」
「今おかえりなんですね、お見送りさせてください」
「この間の約束覚えてますか?今度飲みに付き合ってくれるっていう……今日なんてどうです?」
帰ろうとしている俺の姿を認めた受付嬢さんたちが、たくさん俺の元に駆け寄ってくる。
そして今夜の予定を尋ね、空いているのなら一緒にお酒でもどうかと誘ってくる。
「ははは…まいったな…ええと…そうだな…」
こんな美人さんたちの中から誰か一人を選ぶなんて俺にはできない。
今日はみんなで楽しく飲みませんかとそんな提案をしようとした矢先の出来事だった。
「ああ…あんた!あんたが噂の!」
「ようやく見つけた!!頼む助けてくれ!あんたの力が必要なんだ!!!」
突然慌ただしい声が、俺を呼んだ。
何事かとそちらを振り返ると、鎧に身を包み武器を携帯した冒険者っぽい服装の三人の男が、切羽詰まった表情で俺を見つめていた。
「怪我人がいるんだ!」
「あんたにしか治せないんだ!」
「一刻を争う!俺たちの仲間なんだ!金はいくらでも払うからついてきてくれ!あっちにいるんだ!」
そんなことを言って向こうのほうを指差してくる。
「わ、わかった…ええと…すみません。そう言うことなので、夕食はまたの機会に」
「「「えー」」」
「本当にすみません!」
一刻を争う怪我人がいるとなれば放ってはおけない。
俺は不満顔の受付嬢さんたちに謝ってから男たちと一緒に小走りに現場へと向かう。
「こっちだ…!こっちにいるんだ!」
「ついてきてくれ!一刻を争うんだ!」
「あいつ…無茶しやがって…」
「えーっと……そのお仲間さんは一体どんな怪我を?」
俺がそう尋ねたが、三人は無言で走るだけだった。
「とにかくついてきてくれたらわかる」
「いいから来てくれ」
「緊急なんだ」
「はぁ」
どこか妙な違和感を覚えながらも、とにかく俺は三人についていくしかなかった。
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