第102話


ガイズはカナンの街でそこそこ有名な冒険者狩りだった。


ダンジョンの中で冒険者を相手に盗賊行為を働き、生計を立てている。


今まで何度もダンジョンの中で冒険者を仕留め、武器や防具、集めた素材などを奪い、闇市で金に変えてきた。


ガイズには常に黒い噂が付き纏っていたが、証拠がないので誰もガイズを糾弾することは出来なかった。


ガイズが冒険者狩りに目覚めたのは、かなり若い頃だった。


駆け出し冒険者だったガイズは、その日、ダンジョンでクエストをこなしていた。


ギルドで受注したクエストランクはC。


大した金にもならない簡単なクエストだった。


冒険者になり一攫千金を夢見ていたガイズは、なかなか冒険者ランクが上がらずに燻っていることに苛立っていた。


冒険者になれば楽に富と名声が手に入ると思っていたのだが、アテが外れた。


もしかしたら5年後も自分は今と同じような稼げない貧乏冒険者生活を続けていると考えると気が狂いそうだった。


そんな時、ガイズは瀕死の冒険者をダンジョン内で発見した。


その男はどうやら下層で強いモンスターと戦い、負傷した上級冒険者らしかった。


なんとかモンスターから逃げて上層まで上がってくることは出来たが、もう少しで力尽きそうだった。


『何か、回復薬を持っていないか……なんでもいい。礼はする』


『…』


ガイズは無言で頭を下げるその冒険者の装備に目を移した。


上級冒険者とだけあって装備は全て一級品だった。


また腰の革袋の膨らみを見るに、金や武器素材もかなり持っている可能性が高かった。


周りには誰もいなかった。


ガイズの中にある考えがよぎった。


瀕死のこの男を殺し、金になりそうなものを奪う。


死体をモンスターに食わせれば、証拠は残らない。


このまま貧乏な冒険者生活を続けることにいい加減嫌気がさしていたガイズは、男を殺すことにした。


『頼む……もう自力では歩けないんだ。地上まで肩を貸してくれ…俺は上級冒険者だ。金ならある。生きて帰れたらお前の好きなだけの金を……ガッ!?』


『…ッ』


ガイズは助けを求める男の首元にナイフを突き立てた。


ゴリっとした感触。


ナイフを引き抜くと、ぴゅううと鮮血が吹き出た。


『な…ぜ…』


ガイズは男から距離を取り、死ぬのを待った。


いかに上級冒険者と言えと、瀕死の状態でさらに首を切られたとあっては生きていられない。


三分後、男は血溜まりの中に沈んでいた。


ガイズは急いで男から装備を剥ぎ取り、男の死体に匂いビンの中身をぶちまけた。


モンスターを誘き寄せるフェロモン成分が含まれているこの液体は、通常モンスターのヘイトを自分から逸らすために使うアイテムだった。


ガイズは確実にモンスターが死体を見つけ出して証拠とともに処理するために、緊急時のためにとっておいたアイテムを使った。


そして急いでその場を離れた。


鼓動がどくどくと激しくなっていた。


もう引き返せない。


取り返しのつかない罪に自分は手を染めてしまった。


ガイズは誰にもバレることなく地上に引き返し、その後数日間罪の意識に悩まされた。


だが男から奪った装備を闇市で金に変え、手に入った金貨を見た時に考え方を変えた。


真っ当な冒険者ではなく、自分はこの道で生きていこうと。





ガイズは次なる獲物を探すためにギルドの入り口を観察していた。


獲物とはもちろん、殺して装備、金品を奪うための犠牲者だった。


ガイズの狩場は主にダンジョンだった。


ダンジョンは薄暗く、迷路のように入り組んでいていくつもの分岐が存在するため、他の冒険者に見つかりにくい。


それにダンジョンなら、死体は放っておいてもモンスターが処理をしてくれる。


冒険者狩りにとってダンジョンほどうってつけの狩場は存在しなかった。


なのでガイズは次に仕留める獲物を、ダンジョンによく潜る冒険者の中から選ぶことにしていた。


最近一人目をつけている冒険者がいる。


(お、出てきたな…) 


ダンジョンの入り口を見張っていると、ちょうど件の冒険者が出てきた。


男は30歳ぐらいの歳のいったおっさんであり、最近この街に来たらしい。


どんな手を使ってか、前代未聞の速さで冒険者ランクを上げて、今はソロでありながらAランク冒険者の中で一番稼いでいると噂だ。


今日も男はクエスト料と素材換金料でたんまり稼いだらしく、ずっしりと重たそうな革袋を持っていた。


装備もかなりいいものを使っている。


もし狩りが成功し持ち物全てを奪うことができたら、相当な金が手に入るだろうとガイズはふんでいた。


(ソロで金持ちの冒険者。毎日のようにダンジョンに潜る……こんな獲物を逃す手はないな…)


都合のいいことに獲物はソロの冒険者だった。


ソロの冒険者は、冒険者狩りにとって格好の獲物だ。


モンスターに追い詰められて怪我を負えば、助ける仲間が周りにいないからだ。


しっかりタイミングを見極めれば、相手がどんなに強くても反撃する暇を与えずに仕留められる。


(情報も十分に集めた。結構は明日だ…)


少し前から獲物に唾をつけ、必要になる情報を集めていたガイズはいよいよ明日、仕事を決行することにした。



〜あとがき〜


近況ノートにて3話先行で公開中です。

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