第4話
「じゃーな、偽勇者。二度と王城に近づくなよ」
「はい…」
そうして俺は城の外に放逐されてしまった。
理由は、俺が彼らが想定していた『勇者』と言う人材じゃないから。
異界からせっかく召喚したにもかかわらず特別な力を持たない俺は必要ないんだと。
「流石に酷くないか…」
思わずそんな言葉が漏れた。
俺は望んでこの世界にいるわけではない。
呼び出したのは完全に向こうの都合である。
にもかかわらず役立たずだと分かったら即お役御免。
路銀すら渡されずに、見知らぬ世界に放逐されてしまった。
「理不尽だ……でも、まぁこんなものか」
常人なら泣きたくなるほど理不尽を受けた自覚はあるのだが、俺は案外平気だった。
きっと就職してからこれまで勤めた会社でさまざまな理不尽に見舞われてきたおかげだ。
精神耐性だけには自信がある。
「まぁ前向きに考えよう…あのシスティーナとかいう女、どう考えてもヤバいやつだったしな」
俺が勇者じゃないと分かった途端にあそこまで態度を変えられる女が、普通なわけがない。
きっと何か裏がある。
もしかしたらシスティーナの話は大部分が嘘で、本当は自分の私利私欲のために勇者の力を使うことを企んでいるかもしれない。
あの大学生カップル二人は、システィーナという地位の高い女に頭を下げられ、大勢に傅かれて完全にいい気になっているが、どこかで必ずしっぺ返しを喰らう気がしてならない。
まだ若い二人が悪い大人たちに騙されるのは心が痛まなくもないが……しかしあの二人の性格から考えれば自業自得と言えなくもない。
ともかくあの二人とはもう別れたわけだから、ここからはまず自分のことを第一優先にして考えよう。
幸い言葉だけは通じる。
コミュニケーションさえ取れればなんとかなるかもしれない。
「まずは街に降りるか…」
城にはもう近づくなと厳命されてしまったため、俺はとにかく王城から離れようと、城下町のような場所を目指して歩く。
「しかし……こんな弱いステータスでこの先大丈夫だろうか」
歩きながら俺は改めて自分のステータスを確認してみた。
再度見ても弱そうなステータスである。
あの大学生カップルのステータスとは、ゲームを始めたばかりの初期の頃と、レベル上げを終えて終盤でボスに挑む前のキャラクターぐらいの差があった。
やはり『勇者』というジョブはこの世界において特別らしい。
システィーナの話を聞いている限り、この世界は魔法とかモンスターとかそんなものが存在する非常にファンタジックな場所だ。
そんなところで、果たしてこのような弱いステータスで生きていけるのだろうか。
システィーナは異界から召喚した者たちはこれまで例外なく強かったと言っていた。
どうして俺だけが弱かったのだろうか。
『持てる者、持たざる者の差だろ』
M商事の内定をもらったと自慢していたあの男の言葉が蘇る。
やっぱりこっちでも勝ち組、負け組という区分があって俺はいわゆる負け組側の人間なのだろうか。
それとも何か俺にも隠された力や才能があるのだろうか。
「そういや、この文字はシスティーナには見えてなかったっぽいんだよな」
改めてステータスを確認してみて、やはり気になるのは一番下に表示されている“シークレットステータス”の文字だ。
ここだけ他の文字とは色が違い、まるで“気づいて!”とでも言わんばかりに点滅している。
この文字はどうやらシスティーナからは見えていないようだった。
彼女は完全に俺が気を引くために嘘をついたと思っていた。
「シークレットステータス……秘密のステータス……どういう意味なんだ?」
俺が首を傾げていたその時だった。
シークレットステータスを解放しますか?
YES or NO
「お…?」
唐突にステータス画面の前にそんな文字が表示された。
俺は足をとめ、その文字を凝視する。
「シークレットステータスを解放…?どういう意味だ?」
わからない。
だが、とりあえずYESかNOのどちらかの選択が迫られているらしい。
「まぁ、YESか?」
ゲームだとこういうのは大抵YESと答えておけばいいみたいなところがある。
NOと答えて、千載一遇かもしれないチャンスを不意にしてしまうのが怖くて、俺はとりあえずYESを選択してしまった。
次の瞬間…
「は…?」
半透明のステータス画面が反転し、裏画面みたいな場所に飛ばされたのだった。
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