第3話
システィーナが小声で何事か唱えた。
するとその手が淡く光を帯び、同時に俺たち三人の目の前にまるでゲーム画面のようなものが現れた。
RPGなんかでキャラクターの強さを数値化した感じのアレだ。
「ええと…これは強いのか?」
俺はシスティーナの魔法?によって現れた自分の強さを示しているらしいそれを見る。
目の前に半透明のウィンドウのような形で存在するステータス表示には、俺の名前や各種パラメータの数値が書かれてあった。
お世辞にも強そうに見える数値じゃなかった。
これはまだ召喚されたばかりだからそうなのだろうか。
そう思って隣を見た俺は、思わず目を剥いた。
カップル二人の目の前にも俺と同じようにステータスの数値が現れており、それはこちらからでも視認できたのだが、俺とは数字が3桁以上違った。
名前の下に『勇者』の文字も見える。
俺のステータスにはどこにも『勇者』の文字がない。
この世界に来たばかりの俺は、このステータスについてあまり詳しくはないのだが、それでも二人と俺の間に決して埋められない差があることは理解できた。
「おー、なんかすごいな!」
「すごーい、ゲームみたい!」
自らの目の前に現れたステータスに二人は興奮気味だ。
そしてシスティーナも、そんな二人のステータスを見て安心したような表情を浮かべている。
「素晴らしいステータスですね。ジョブにも勇者と書かれていますからあなた方は間違いなく勇者です。勇者の加護もしっかりとあるようですね。安心しました」
「なになに?やっぱり俺たちって強い感じ?」
「これってどれぐらいすごいの?」
自慢げに尋ねる二人にシスティーナは二人を煽てるように言った。
「そうですね……まずステータスなのですが、お二人はレベル1なのにもかかわらず、すでに戦闘熟練者並みの数値となっております。それからお二人がお持ちの勇者の加護は、加護の中でも最強格と呼ばれるもので、これがあるだけで傷が癒える時間が圧倒的に短くなり、攻撃力も倍加されます」
「マジかよ!」
「すごーい、やっぱり私たちってすごいんだ」
システィーナの説明を聞いて素直に喜ぶ二人。
自分たちがこの世界において特別な存在である事実が確認できて嬉しいようだ。
「ええと、それでもう一人は…」
二人のステータスを確認し終えたシスティーナが俺の方へやってきた。
それと同時に二人も俺の方へ視線を移し、ステータスを見た。
「ぶははっ!おいおい、ちょっと待て!?な
んだよそのステータスは!?」
「うわっ、弱っ。弱すぎないそれ流石にっ。あははっ」
俺のステータスを見て爆笑する二人。
本当に気遣いも何もない連中だ。
一方でシスティーナは、俺のステータスを見て顔を顰めていた。
「その数値……こちらの一般人以下のステータスです」
「うっ」
顔に似合わずはっきりとそんなことを言うシスティーナ。
二人の笑い声がさらに大きくなる。
「雑魚認定されてら!」
「きゃはは。向こうでもこっちでもやっぱりダメな人はダメなんだね。あはははは」
「お前ら…」
イラっとした俺が二人に詰め寄ろうとするが、その間にシスティーナが割って入る。
「勇者様に何をするつもりですか、一般人」
「え…」
システィーナの俺を見る目が変わっていた。
先ほどまでは俺たちのことを勇者様と呼び、尊敬するような眼差しを向けていたのだが、今はゴミでも見るような冷たい目をしている。
「貴方のステータスにはどこにも勇者と書かれていません。つまり貴方は勇者ではないと言うことです」
「え…いやでも…」
「こんなこともあるのですね、驚きです。ですがステータスは嘘をつきません。あなたには英雄になる資格がない。というかそのステータスじゃ、魔族どころかその辺の雑魚モンスターにも勝てません、役立たずです」
「…」
流石に酷すぎないかと思った。
勝手に召喚したのはあんただろう。
それをなんだ、人が役立たずだと分かったら気をつかう様子もなくずけずけと…。
「あはは。残念だったねおじさん。向こうでもこっちでも、負け組は負け組ってことね」
「無様だなぁ。そしてやっぱり俺たちは持ってる側の人間だった。そう言うことだ」
二人は完全に勝ち誇ったように俺を見てくる。
俺は「はぁ」とため息を吐き、それからシスティーナを見ていった。
「わかりました。俺は勇者じゃない、あなたには必要のない人間なんですね」
「そう言うことです」
「じゃあ、元の場所に返してください」
「は?無理ですけど」
システィーナが何を言っているんだこのバカは?みたいな顔で俺を見てくる。
「いや、俺は必要ないんでしょ?じゃあ、元の世界に帰ったっていいじゃないですか」
「残念ながらそれはできません。送還の儀式には莫大な魔力とお金がかかるのです。あなた如きのためにそれだけの対価を払う価値があるとは思えません」
「はぁ…?」
「一度の召喚に対して行われる送還は一度のみ。そしてそれは本物の勇者様たちのために行われます。あなたではなく、彼らのために」
そう言ってシスティーナがカップルの二人を指差した。
二人が得意げに胸を張り、俺を見下してくる。
俺はあまりに身勝手なシスティーナを見て呆然とした。
「じゃあ、これから俺はどうすれば?」
「知りません。ですが勇者でない人の面倒を見るつもりはありません。城の外に放逐しますからその後は好きにしてください」
「そんな…」
文化も法律も全くわからない未知の世界で突然放り出されて生きていけるはずがない。
そう思ったが、システィーナはもはや俺から興味を失ったらしく、完全に『勇者』の二人の方を見ていた。
俺は何かこの城に留まる方法はないものかと考え、自分のステータスをもう一度よく見てみる。
すると一番下の方に“シークレットステータス”という文字が見えた。
なんだろうこれ。
わからないが、もしかしたらこれでシスティーナの気を引けるかもしれない。
「あ、あの……システィーナさん?」
「…なんですか」
「俺のステータス……一番下にシークレットステータス、とかかれているんですが…」
「どこですか…?そんなこと書かれてませんが」
「え…?」
俺のステータスを見て首を傾げるシスティーナ。
もしかして彼女からは見えていないのか。
「いや、一番下にあるじゃないですか、よく見てください。ここだけ文字の色が違ってて点滅してるやつです、シークレットステータスって書かれてるやつです」
「そんなの見えません。私の気を引こうとして出鱈目を言わないでください」
「いや、出鱈目なんかじゃ…」
「あなたの放逐は決定しています」
そう言ったシスティーナが周りの人間たちに目配せをした。
すると鎧を着た兵士たちが数人俺に近づいてきて、肩を掴み、無理やり連行する。
「すぐに城の外に摘み出してください。勇者でもない異界人など必要ありません」
「ちょ、ちょっと待って…」
俺はなんとかその場にとどまろうとするが、何人もの兵士たちに腕を掴まれて抵抗できない。
「システィーナさん!」
名前を呼ぶがシスティーナはもはやこちらを見ておらず、完全に興味を失ったように背を向けていた。
「じゃーな、おじさん」
「負け組のおじさん、せいぜい頑張ってねー。野垂れ死なないようにねー。あはは」
絶望する俺に、二人の煽るような声が追い打ちをかけた。
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