第97話
「え…なにこれ、どういうこと…?」
ルリィが目を瞬かせる。
ルリィの右足を覆っていた光が収束すると、そこには先ほどまでなかったものが嘘みたいに存在していた。
ルリィはまるで幻想に触れようとするかのように恐る恐る自らの右足に触れる。
「これ…私の、足…?動く…動く、動く……なんで?え…え…?」
右足をそっと撫でて、動かしてみたり、持ち上げたりしているルリィ。
もうルリィを支える必要のなくなったシエルが、ルリィに言った。
「よかったね…ルリィ…私と一緒…治ったんだね…」
「あ…」
じわっとルリィの目に涙が溢れる。
嗚咽を漏らしながら、ルリィが言った。
「本当だったんだ…シエルの言ってたこと…目を治してもらったって…」
「うん……そうだよ……シエルの右目も嘘みたいに治っちゃったの…」
「あの…ご主人様。私に右足をくれて、本当にありがとうございます」
「おう。役に立てたのなら何よりだよ」
ルリィが自らの足で立ちながら、ぺこりと俺にお辞儀をしてきた。
ポタポタと涙が地面に垂れる。
ルリィは泣き腫らしていた。
多分いろんな感情が込み上げてきたのだろう。
「私…ずっと自分のこの足が憎かったんです。半分しかないこの足が。この足のせいでたくさんいじめられて、両親にも捨てられました。だから、何度も何度も神様に、足をくださいって祈ったの。まさかその祈りが届いたなんて思わなかった」
「役に立てたのなら何よりだよ」
俺は喜びを溢れさせるルリィの頭を撫でる。
ルリィがぐしぐしと涙を拭ってそれから抱きついてきた。
「あ」
「大好きです、ご主人様」
「お、おう」
「ちょっと……だめ、ルリィ……私を差し置いて…抜け駆けは許さない…」
「ぐふ!?」
なんの対抗心を燃やしたのか、ルリィのみならずシエルまで抱きついてきた。
ぎゅぅううと二人同時にかなりの強さで締め付けられる。
結構苦しい。
俺は二人の頭を平等に撫でながら、自分でも回復魔法が機能したことに驚いていた。
(傷だけではなく生まれながらの欠損部位にも俺の回復魔法は有効なのか…)
今まで俺の回復魔法は、怪我だけを治すもので
元々ないものを新たに生み出すことは出来ないと思っていた。
だが俺はルリィの生まれつき欠けている右足を再生させることが出来た。
(治す…というよりもあるべき姿に戻す、というのが本来の力なのか…)
今まで簡単に使用してきた回復魔法だが、意外と奥が深いのかもしれない。
時間がある時に色々と検証が必要かもしれないと俺はそんなことを思った。
あと、そろそろ本気で苦しくなってきたのでいい加減解放してほしいとも思った。
「うみゅぅ…」
「ん…んぅ…」
「あの……二人とも?ちょっとくっつきすぎでは?暑いよ?寝汗がすごいことになるよ?」
その日の夜。
俺はいつもは一人で寝ているベッドに何故かシエルとルリィと共に寝ていた。
別にこれは俺の趣味じゃなくて、まだ二人の分のベッドがないため、こうするより他になかったのだ。
後日、二人の分の家具は買いに行くつもりである。
それまではこれで我慢するしかない。
幸いにもベッドはそれなりに大きいので、体の小さいシエルとルリィとなら十分に離れて寝るスペースがあるはずだった。
だが、何故かルリィとシエルは俺の両腕に思いっきり抱きついてきて離れない。
生暖かい二人の体温が腕に伝わってきてなかなか眠れない。
こっそりと腕を引き抜こうとしても、二人は逃すまいとさらに強く抱きついてくる。
「ご主人様の腕、安心する…」
「ルリィ……抜け駆けはダメ……シエルが先に目をつけたの……」
「やれやれ」
小さい子に甘えられるのは大人としては嬉しいことだが、ほどほどにしてほしいものだ。
まぁともかくシエルを助けることができて本当によかった。
俺が奴隷商館に行くのがもっと遅かったらシエルを誰かが購入していたかもしれない。
そう思うと奴隷購入を勧めてくれて背中を押してくれたラーズさんに感謝だな。
ルリィの右足にも俺の回復魔法が役立って本当によかった。
孤児院では俺以外に心を開いていない様子だったシエルが、ルリィには心を開いている。
俺以外の依存先を見つけたのはいい兆候と言っていいだろう。
「すぅ…すぅ…」
「んにゃ…むにゃ…」
気がつけば両隣から心地良さそうな寝息が聞こえてくる。
俺は二人の寝息を聞きながら、ひとまず明日は冒険者活動を休んで二人のための家具や衣服を買いに行くか、とそんなことを考えるのだった。
〜あとがき〜
近況ノートにて三話先行で公開中です。
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