第96話


「シエル…?どうした…?」


「ルリィ…あ…シエルは…シエルは…」


シエルがその少女に対して申し訳なさそうに顔を伏せる。 


シエルの檻の隣の檻に入っていた少女は、ちょっと寂しそうな顔でシエルのことを見ていた。


「私のことは気にしないで。シエルは幸せになって……シエルの大好きな人が迎えにきて私も嬉しいよ」


「…っ!?ちょ、ちょっと…ルリィ…あんまり……そういうことは…」


「あはは。シエル可愛い。本当に好きな人の前ではそんな感じなんだね」


シエルがなぜか少し顔を赤くして照れくさそうにしている。


なんだかよくわからない。


シエルの隣の檻に入っていた少女に俺は見覚えがない。

俺はシエルにその少女とどう言う関係なのかを尋ねる。


「シエル…?その子は誰なんだ?」


「ルリィは……ここにきて知り合ったの……一緒にいろんな話をした…」


「…知り合い、か」


少女の名前はルリィというらしい。


よく見るとルリィという少女には右足がなかった。


失ったのか、それとも生まれた時からないのかわからないが、右足の膝から足が存在しなかった。


「これ、気になりますか?」


ルリィが俺の視線に気がついてそんなことを言ってきた。


「生まれつき、こうなんです。これのせいで気味悪がられて両親に売られました」


「そう、か…」


少し胸が痛む。


辛い境遇に置かれているようで同情するが……残念ながら俺にしてやれることはない。


本当なら足を直してやりたいが、奴隷である以上彼女はこの店の所有物だ。


勝手なことをすれば俺は罪に問われてしまう。


「行くぞ、シエル」


「あ…え…その…」


シエルがまた泣きそうな表情になる。


檻の中のルリィのことを見て、それから何か望みを託すように俺のことを上目遣いに見てきた。


「そ、そんな目で見てもダメだ…」


「…はい」


シエルの表情が一気に沈む。


「ああもう…」


ガシガシと俺は頭をかく。


ニヤニヤしながら店主が、俺の方へ近づいてきた。


「あの奴隷が気になりますか、お客様」


「…いや、そういうわけでは」


「今ならお安くしておきますよ。彼女は欠損奴隷。いわば不良品。そういうのが好きなお客様もいらっしゃりますが、基本的に性奴隷としても雑用奴隷としても避けられる商品です。ですので今ならお値段は…」


「…その値段でいいのか」


「はい」


店主が手をこね回しながら伝えてきたルリィの値段は、シエルの三分の一以下だった。


俺は革袋の中の金貨を確認する。


十分、ルリィを変える金が、まだ革袋の中には残っていた。


「どうしますか、お客様」


「…」


「先ほど申し上げた値段は今だけの特別価格ですよ?お客様には高い買い物をしていただきましたからね。彼女がこれだけ安く買えるのは今日だけです。後日の購入になればもっとお金を払っていただくことになります」


「…っ」


俺は革袋の中身を見る。


ぎゅっとシエルが俺の服を握ってきた。


「わ、わかったよ……彼女を……ルリィを買うよ」


「…!」


「お買い上げありがとうございます!」


シエルの表情がぱぁっと明るくなった。


店主が満面の笑みで鍵を探し、ルリィの檻を開ける。


結局、その日俺は奴隷商館で2名の少女の奴隷を買って、家路に着いたのだった。




「ルリィ。ちょっとこっちにきてくれ」


「なんでしょうか、ご主人様」


奴隷商館から買って帰ったシエルとルリィの二人をマイハウスの風呂に入れ、新しい服を着せて食事を摂らせた後。


俺はルリィを自分の元へ呼び寄せた。


ルリィはシエルに肩を貸してもらいながら、俺の方へやってくる。


「ご主人様、なんて堅い呼び方じゃなくていいぞ」


「いえ、ご主人様はご主人様なので」


「…そうか」


俺としては主従関係じゃなくて、家族みたいな間柄を目指しているのだが、ルリィなりに譲れない一線があるらしい。


頑なに俺のことをご主人様と呼ぶ。


まぁそれは今はいいとして、もっと大事なことがある。


「その足…ちょっと見せてもらっていいか?」


「私の足?でしょうか…」


「ああ」


俺はルリィの右足を観察する。


右足は膝から先が完全にない状態だった。


ルリィはこれは生まれつきのものだと言っていた。


果たしてこれは傷と言えるのだろうか。


「ご主人様?」


真剣な表情でルリィの右足を見ている俺に、ルリィが怪訝そうに首を傾げる。


「大丈夫…ルリィ……多分、すごいことが起こる…」


そんなルリィに安心させるようにシエルがそういった。


「すごいこと…?」


「多分…ルリィにとってとってもいいこと」


「…?」


ますますきょとんとするルリィ。


俺は出来るかどうかわからないが、ルリィの生まれつきの右足に対して回復魔法を使ってみる。


「パーフェクトヒール」 


「わっ!?」


ルリィの右足が光に包まれる。


ルリィが驚きの声を上げる。


俺自身まだ疑心暗鬼の中での回復魔法の使用だったが、その結果はどうやらシエルの言った通り「ルリィにとっていいこと」となったようだった。



〜あとがき〜


近況ノートにて三話先行で公開中です。

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