第43話
ダンジョン中層の攻略を進めていく蒼の聖獣と俺は、何度かモンスターの群れに遭遇した。
しかしアリッサ、イリス、ヴィオネッサの三人は歩みを止めることなく、見事な連携で群れを捌ききり、どんどん奥へと進んでいく。
時にはダンジョンの通路を埋め尽くすほどの数の群れと遭遇することもあったのだが、三人が通り過ぎた後には動かなくなった死体と切り刻まれた血肉が地面に転がっているだけだった。
俺は三人の洗練された動きに圧倒され、とにかく少しでも多くのものを学び取ろうと必死だった。
そんな感じでダンジョンの攻略はなんの問題もなく進んでき、気がつけば中層と言われる領域を突破していた。
「ここから下層か」
「ようやくたどり着いたな」
「こっからが本番ってところだな」
「…っ」
三人がそう言って表情を引き締める。
上層、そして中層の時とは全く違った空気感だ。
三人の本気度が、その真剣な表情から伺える。
ここから先は、真に危険と隣り合わせの冒険なのだ。
下層と呼ばれる領域は、上級冒険者のパーティーであれど危険が伴う。
一つ判断を間違えれば、命を落とす危険があるようなそんな場所なのだ。
三人が最後尾の俺の方を振り返って言った。
「こっから先は悪いが完全に私らだけで戦闘はやらせてもらう」
「下層では他のやつに構っている余裕はないからな」
「あんたはこの前と同じくサポートに回ってくれ。タイミングはこっちで指示するから、その時が来たら回復魔法を頼む」
「りょ、了解です」
俺は頷いた。
流石に下層での戦闘に参加する気は俺にもなかった。
下層に出現する強力なモンスターと俺が戦ったとしても、邪魔になるだけだろう。
ここから先は、モンスターとの戦闘は完全に三人に任せてしまって俺は本来の役割である回復役に徹することにした。
「それじゃあいくぞ」
「準備はいいか?」
「ああ、私は大丈夫だ」
「い、行きましょう…!」
俺たちは互いに頷きあい、それぞれの配置について、下層へと足を踏み入れた。
今回のダンジョン探索クエストにおける目的は、ダンジョンクリスタルという鉱物資源を採取することだ。
ダンジョンクリスタルとは下層領域のみで取れる貴重な資源であり、地上へ持ち帰れば莫大な富をもたらしてくれる。
つまり俺たちに課せられたミッションは、下層の強いモンスターたちから身を守りながら、ダンジョンクリスタルを探し当て、採取し、地上へと持ち帰ることだった。
「モンスターに注意しろ…」
「ダンジョンクリスタルを見落とすな」
「あれは天井に生えてやがることもあるからな……おい、あんたも頼むぜ?」
「わかりました。俺も見逃さないように注意しておきます」
下層に足を踏み入れた俺たちは、ダンジョンの暗い洞窟の中を、ダンジョンクリスタルを見逃さないように注意しながら進んでく。
一番先頭の配置であるパーティーリーダーのアリッサが主にモンスターの警戒を担当。
他の三人が、ダンジョンの地面、壁、天井に目を配り、ダンジョンクリスタルを探す役割を担っていた。
俺は最後尾を歩きながら、イリス、そしてヴィオネッサと共にダンジョンクリスタルを見逃さないように注意して視線を巡らせていた。
「思ったんですけど……ダンジョンクリスタルって、ダンジョンを掘ったりして探すことは出来ないんですか?」
ふと疑問に思って俺は聞いた。
ダンジョンクリスタルは下層であればどこでも採取できる鉱物資源らしい。
なら、わざわざ歩き回らなくても立ち止まってその辺を掘れば見つかるのではないかとそう思ったのだ。
「その疑問はもっともだな」
「最初は誰もがそう考える。でも、無理なんだ。おい、ヴィオ。説明してやれ」
リーダーのアリッサが、警戒を怠ることなく前を見据えながら、ヴィオネッサにそういった。
ヴィオが、ダンジョンクリスタルを掘削して探すわけにはいかない方法を教えてくれる。
「あんたが言った方法が通用しない理由ひとつ目。まず、ダンジョンには修復機能がある」
「修復機能?」
「ああ」
ヴィオネッサが不意に剣を抜いて、つかで近くの壁を殴った。
ボゴォ!!!
鈍い音がして、ダンジョンの壁が若干削れる。
流石の威力だ。
「こんな感じで傷をつけても、多分数時間後には元通りだ。だからダンジョンを深くまで掘削することは出来ないんだ。掘った先からどんどん治っていくからな」
「な、なるほど…」
確かに、俺の言った方法が通用するならそもそも地上からダンジョンを掘り返して大規模な掘削を行えばいい。
その最も基本的な方法が行われず、こうして冒険者がわざわざ危険を犯してダンジョンに潜っているのには理由があるのだ。
「そして理由二つ目。それはダンジョン内で同じ場所に長く止まるのは危険行為なんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、奴らは気配を嗅ぎつけてすぐに集まってくるからな」
「奴ら?」
「もちろん、モンスターだ」
ヴィオネッサが脅すような口調で言った。
「同じ場所に長い時間止まって掘削作業なんてやってみろ。あっという間に囲まれるぜ。上層や中層ならまあいいが……それが下層だった場合、わかるだろ…?」
「…っ」
ブルっと身震いした。
一体でも厄介な下層のモンスターに囲まれて逃げ場を失う。
確かにそれは絶対に避けなければならない状況だろう。
「そういう理由で、深いところに埋まっているダンジョンクリスタルの掘削は無理なんだ。入手方法はただひとつ。比較的ダンジョンの表層に押し出されてきたやつを短時間で採取してずらかるしかない。今の所これが一番効率的で危険の少ない方法なんだ。わかったか?」
「よくわかりました。教えてくれてありがとうございます」
俺は丁寧に教えてくれたヴィオネッサにお礼を言った。
こうして冒険者たちから得られる知識ひとつ一つは非常にありがたく、俺の血肉となって生きていく重要なものだった。
俺は異界人という事情ゆえ、この世界の常識に疎い。
なのでこうした会話の中から重要な情報を得ることが多いのだ。
ダンジョンには修復機能がある。
ダンジョン内で同じ場所に長くい続けてはならな
い。
そんな今得た知識を、俺は頭の中に叩き込む。
「おい、休憩は終わりだ」
アリッサがそう言って足を止めた。
「くるぞ…一匹」
「ああ、みたいだな」
「おいあんた。始まるぞ、油断するなよ」
「…!」
場の空気が一気に緊張する。
新しい知識を記憶に刻むことに夢中になって気が付かなかったが、確かに前方から気配が迫ってくるのを感じる。
これまで上層や中層では絶対に感じることのなかった、威圧されるようなあの独特の強者の出す存在感だ。
「離れてろ」
「は、はい…!」
俺は指示に従い、前線を張る三人から距離を取る。
『グゥウウウウ……』
やがて暗闇の向こうから、低い鳴き声と共に強烈な存在感の主がその姿を現したのだった。
〜あとがき〜
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