第42話
パチパチパチパチと拍手が聞こえてきた。
俺の戦いを見守っていたアリッサ、イリス、ヴィオネッサの三人が俺のことを手を叩いて称賛していた。
「やるじゃないか」
「少し見入ってしまったぞ」
「初心者にしては出来すぎている。間違いなくお前には才能がある」
「あ、ありがとうございます…」
俺は三人のストレートな称賛が気恥ずかしく
て頭を掻いた。
アリッサが地面に転がったオークの死体と俺を見比べていった。
「本当にすごいと思った。お前、本当に戦闘初心者なのか?さっきの一撃は、私も思わず見入ってしまったぞ」
「ありがとうございます。と言っても……もうほとんど瀕死のオークにとどめを刺しただけなので…」
「いや、トドメの一撃のことじゃない……こいつの手を切り落とした時のことだ」
「あ、そっちですか」
「あの時のお前の動きは、私らと比べても引けを取らないものだった。誰かに習ったのか?」
「いえ…そういうわけではなく…」
俺はオークの右腕を切り落とした時のことを思い出す。
あの時のことは自分でもうまく説明できないのだが、刹那の瞬間にどう動けばいいのかがわかったような気がしたのだ。
誰かに習ったわけでも自分で考えていたわけでもなく、あの瞬間にこうすればいいという正解が見えたという感覚が近い。
「どう動けばいいのか……咄嗟にわかった気がしたので」
「…」
そういうとアリッサが俺のことをじっと見つめた。
意味ありげな視線に俺は首を傾げてしまう。
「いや、なんでもない。ともかく……あの一瞬だけは本当に動きは良かった。その他に関してはまだまだ未熟だったが…」
「はい…これから精進します」
「ああ。頑張るといい。お前は磨けば光るタイプだ。ポテンシャルがあるからな。今まで、自分の力を過信して、大した実力もないのに威張り散らすバカをたくさんみてきた。だが、お前には身を滅ぼすような奢りも見えない。きっとこれからもっと成長して大きな存在になるだろう」
「や…ははは。それほどでも…」
アリッサにここまで褒められるとは思わず、俺は照れ臭くなって頭をかいた。
「いや、本当だぜ。マジでびっくりした」
「回避能力も申し分なかったしな。あんたは化けると思うぜ」
他の二人もアリッサに同意して褒めてくれる。
「ありがとうございます。皆さんに励ましてもらえると、勇気をもらえます」
「謙虚なやつだなぁ…」
「あはは…お前はもうちょいガツガツしていいと思うぜ。自信持てよ。あんな強力な回復魔法使えるってだけでもめちゃくちゃすごいんだからよ」
「いや、私はむしろこのぐらいの方が…可愛げがあって……ふふふ」
「…?」
三人が俺のことを取り囲んで、何やら目配せしている。
自分より背が高く、ガタイもいい美女たちに囲まれて、ちょっと緊張してしまう。
というかなんだろう。
三人ともが獣に似た目をしているような気がするのだが。
「いや…まだやめとこう」
「ああ……流石に可哀想だ」
「前も同じことがあって……逃げ出したばかりだからな。強引なのは良くない」
「…?」
何やら意味のわからないことをぶつぶつ言い出す三人。
俺が首を傾げていると、三人は自分たちの中に浮かんだ考えを否定するように首を振って、歩き出した。
「行こう、時間がない」
「ああ。私らの目的は下層にあるからな。こんなところでぐずぐずしていられない」
「ここからの戦闘は私らが担当する。あんたはみてな。実戦もいいがみて学べることもあるだろ」
「わ、わかりました…」
謎の緊張した空気はなくなり、いつもの蒼の聖獣の雰囲気に戻っていた。
さっきの空気は一体なんだったんだと疑問に思いながらも、俺は三人の後に続いてダンジョンの中を進んでいく。
そこから先のモンスターとの戦闘は、俺以外の三人が担当することになった。
俺は彼女たちに言われた通り、三人の動きを背後から見守り、基本的な戦い方を学んでいく。
「すげぇ…」
三人の戦いは、一言で言うと圧巻だった。
自分でモンスターと戦ってみて初めて、三人がどれほど難しいことをやっているか、その動きがいかに無駄がなく、洗練されているかがよくわかった。
あれだけ褒められてちょっと調子に乗ってしまったが、俺なんてまだまだなのだと思い知らされる。
「おらぁつ」
「そっち行ったぞ」
「まかせろ」
三人は互いに連携し、中層のモンスターたちを、危なげなく処理していく。
モンスターたちは、三人の完璧な連携の前になすすべなく屠られていき、死体として地面に転がる。
「ああやって戦うのか…」
俺は少しでも三人から技術を盗もうと、その戦闘を真剣に観察する。
速さ、反射速度に関しては、三人は俺とあまり大差ないように見えた。
その動きを俺はちゃんと目で追うことができるし、彼女たちの動きを自分の体で再現するのが不可能だとは全く思わなかった。
しかし、経験と体の使い方に関しては三人と俺の間には途方もない差があるのだと改めて思い知らされた。
とにかく三人の動きには無駄がなかった。
また読みも鋭く、駆け引きもうまかった。
冒険者講習でガレスと戦った時に感じたような、熟練の技のようなものがそこにはあった。
確かにこれだけの技術を持つ彼女たちからしたら、反射神経と力任せの闘い方に依存している俺はまだまだ未熟なのだろう。
「そう言う時はそうして……なるほど、相手がそうきたら、あんな感じで動けばいいのか…」
俺は複数体の中層のモンスターを、きり捌いていく上級冒険者三人の動きを脳に焼き付ける作業に集中するのだった。
〜お知らせ〜
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三話先行して公開しています。
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