第80話


ダイキは何が起きたのか理解できなかった。


身の程知らずにもダイキには向かってきた兜の男を、ダイキは魔法で殺したはずだった。


システィーナを失望させ、城から追放されるほどの弱いステータスを持つ兜の男にダイキの魔法が耐えられるはずがなかった。


兜の男は、ダイキの魔法を受けて即死したはずだった。


にも関わらず、兜の男は立ち上がった。


そして剣を持ち、何事もなかったかのように再びダイキと対峙している。


魔法は確かに当たったはずだった。


やはりダイキは理解することが出来なかった。


「どういうことだ?なぜ立てる?」


「そ、そうよ…!なんで死んでないのよ!一体どういうこと!?」


ダイキとカナの疑問の声に兜の男は答えた。


「ここで死ぬわけにはいかないだろう。お前たちを止めるのが俺の使命だ」


兜の男の答えはダイキにとって意味をなすものではなかった。


ダイキが知りたかったのはなぜお前ごときが自分の魔法に耐えられたのか、ということだった。


「くそ…気分悪りぃな…」


ダイキはがしがしと頭を掻いた。


一撃で兜の男を仕留められなかったことにダイキは苛立っていた。


「殺すまで撃ち込んでやるよ。肉一片すら残さない」


ダイキは本気を出すことにした。


先ほどは、兜の男一人を仕留められるぐらいに魔法の威力を調整したのだが、今回はそうするつもりはなかった。


周りにいるアリシアや兵士たち含め、今目の前にいる人間たちを全員消しとばすつもりだった。


どのみち自分たちの真の目的を聞いた人物を生かすつもりはなかった。


「遊びは終わりだ。お前らを殺す。一人残らずだ」


アリシアも、兜の男も、周りの兵士たちも全員殺す。


最大火力の魔法を持って消し炭に変える。


そうすれば全てが丸く治る。


「来るぞぉおおおお!」


「備えろぉおおおおおお!!!」


「勇者はやるきだぞ!!!」


「ぶ、武器をとれ!!勇者を討ち取るんだぁああああ!!!」


爆発的な殺気がダイキから放たれ、兵士たちが戦く。


ダイキが本気を出そうとしていることに気づいた兵士たちが武器を構え、ダイキに向かって突進しようとする。


「遅えよ」


だが、もはや手遅れだった。


兵士たちがダイキの元に辿り着くよりも早く、魔法が着弾するはずだ。


ダイキは自分へ向かってくる兵士には目もくれ

ず、兜の男とその傍にいるアリシアを見た。 


「あばよ」


「させるか」


魔法を放とうとした次の瞬間、視界の真ん中に捉えていたはずの兜の男の姿が消えた。


「あ?」


ダイキは戸惑いの声をあげる。


腕に、焼けるような痛みを感じた。


ボトリ…


前方に構えていた腕が、真ん中のあたりから切断され、地面に落ちた。


ブシャァアアアアアアア!!!


鮮血が飛び散る。


「お?うぉおおおおおおお!?!?」


自身の右腕から吹き出る鮮血に、ダイキは腕を押さえて、驚きとも悲鳴ともつかないような声をあげた。


「きゃあああああああ!?!?」


それを見たカナも甲高い悲鳴を上げる。


「な!?」


「何が…!?」


「どういうことだ!?」


「何が起こった…!?」


周りの兵士たちも突然の異常事態に動きを止めて、どよめいている。


「うがぁあああああああああああああああああああああ!?!?俺のっ、俺の腕がぁあああああああああ!?!?」


地面に膝をついたダイキは、地面に落ちた自身の右腕を左手で拾い、顔を地で真っ赤に染めながら悲鳴を上げた。


気絶しそうになるほどの痛みに耐えながら、いつの間にか自分の目の前にいる兜の男を見上げた。


兜の男の構える剣の刃には血がこびりついていた。


ダイキは何が起こったのかを、理解した。


「て、てめぇええええええ!?何しやがるぅううううう!?!?お、俺の腕を!!勇者であるこの俺の腕をぉおおおお!?!?」


「うっ」


ダイキは兜の男に腕を切り落とされたことを理解し、発狂する。


それは完全に油断が招いた不覚だった。


兜の男の動きは、ダイキでも捉えられないほどに速かった。


気づけば、兜の男は剣の届く近距離まで肉薄しており、魔法を放とうとしていたダイキの右腕は切り落とされていた。


ダイキには、どうしてステータスが低いはずの兜の男が、勇者に自分に対応できないほどの速さで動けたのか理解ができなかった。


「だ、ダイキ!?どうして!?何が起きてるのぉおおおお!?!?」


ダイキの腕が切り落とされ、パニックに陥るカナ。


ダイキはそんなカナに、意識を飛ばさないように歯を食いしばりながら、怒鳴り声で指示を出す。


「カナぁああああ!!何をぐずぐずしてるぅうううう!?回復しろぉおおお!!!」


「か、回復!?そ、そうだわ…か、回復魔法…!」


慌てたようにカナが回復魔法を発動する。


光がダイキの腕を包み込み、徐々に欠損した腕が元通りになっていく。


「うっ…やっぱり俺には…」


ダイキは自身の腕が完全に治りきるのをまった。


回復状態のダイキは完全に無防備で隙だらけだったが、どうしたことか兜の男はそれ以上攻撃してこない。


膝をついているダイキを見下ろしながら、何かを躊躇っているかのように二、三歩後ずさった。


(ラッキーだ…もうすぐ、もう少しで傷が全開するぞ…)


ダイキは兜の男がなぜか追撃する意思を見せないのを確認し、内心ほくそ笑みながら傷の回復を待った。


このまま傷が回復し切ったら、即座に全力の魔法を打ち込むつもりだった。


ダイキは呻き声をあげたりして苦しんでいるふりをしながら、腕が完治し、痛みが引いていくのを待った。


(よし、傷が治ったぞ…!)


1分。


それぐらいの時間をかけてカナの回復魔法が完全にダイキの傷を癒した。


「死ねぇええええええ」


立ち上がるや否や、ダイキは作戦通り、突然立ち上がり、兜の男に対して即座に魔法を打ち込もうとした。


「やめろおおおおお」


ドゴォオオオン!!!


「ごはぁ!?」


その直後、息が詰まるような打撃を腹に喰らい、ダイキの体は吹っ飛ばされた。



〜あとがき〜


近況ノートにて三話先行で公開中です。

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