第25話


「それではまず勇者様方のお力を調べさせてもらいますね」


二人がこの世界の救世主となることを引き受けるとシスティーナは、その力を調べるといい始めた。


もう一人のあの男が、何か二人の決定に対して意見を言おうとしていたが二人は当然無視した。


ダイキとカナは選ばれなかった側の人間の意見など聞く必要がないと考えていたからだった。


システィーナが三人に対して手を翳し、何事か唱えた。


すると明るい光が生まれ、ダイキとカナの前にまるでゲーム画面のように数字の羅列された情報群が並んだ。


元の世界にはなかった未知の力に驚くとともに二人はどうやら自分たちの強さを表しているらしいその数字を眺めた。


「素晴らしいステータスです!勇者として申し分ないです!」


システィーナが二人の数値……ステータスというらしい……を見てそう褒めた。


二人はどの辺が強いのかよくわからなかったが、システィーナの反応を見てやはり自分たちはこの世界でも選ばれた側の人間であるらしいことを確信した。


「もう一人のお方は…」


ひとしきり二人のステータスを褒めたシスティーナが、男の方を見た。


二人とともにこの世界にやってきたサラリーマン風の男は、自分のステータスと二人のそれを見比べて何やら絶望した表情を浮かべている。


「なんですかこのステータス……ゴミじゃないですか」


「え…」


システィーナの言い方は容赦なかった。


男のステータスを見て、明らかに態度を変えていた。


先ほどまでは勇者様と敬っていた態度だったのだが、一気に底辺のゴミを相手にするかのような態度に変化していた。


ダイキとカナは自分たちのステータスと男のステータスを見比べる。


「ぷっ」


「ぶはっ。冗談だろ?」


そして思わず吹き出した。


二人と男のステータスの間には雲泥の差があった。


そこに羅列されているステータスの数値には、3桁以上の差があった。


まだこの世界の情報をあまり知らない二人の目にも、自分たちと男のステータスの間に圧倒的な差があることが理解出来た。


哀れな男はどうやらこの世界でも“選ばれなかった側の人間”だったようだ。


「なんだよそのステータス!?」


「弱すぎない!?ウケるんだけど」


二人は男を笑わずにはいられなかった。


システィーナは男が役立たずであるとわかると一気にその態度を冷たくした。


そしてこの先役に立ちそうもない男を城から放逐するといい出した。


「あなたにはこの城から出ていってもらいます。勇者でない異界人など必要ありません」


「そんな…」


男は絶望し、なんとかシスティーナの気を引き止めようと、訳の分からないことを捲し立てた。


自分のステータスの一番下に何かが書かれてあるからそれを見てくれ。


もしかしたらそれが、自分がこの世界で有能であることを示す証拠かもしれない。


そういいたげだった。


しかし男の言葉は明らかに嘘だった。


システィーナの魔法によって表示された男のステータスには、話にならない弱そうな数字の羅列以外何も見当たらなかった。


あわれた男は、放逐されるのが嫌で必死になって嘘をでっち上げてシスティーナに取り入ろうとしているらしかった。


その様子がおかしくて、二人はニヤニヤと男の行く末を見守った。


「私の気を引こうとして嘘をつかないでください」


「本当なんです!シークレットステータスって書かれてあるじゃないですか!よく見てください!」


「そんな文字どこにも見えません。どのみち勇者でないあなたの放逐は決定しています」


「そんな…」


システィーナが配下の兵士たちに指示を出した。


そして男はあっという間に取り押さえられ、外へと連れ出されていった。


「じゃーね、おじさん」


「せいぜい頑張れよー」


あの様子だとおそらく食料や路銀すら持たされずにあの男は放り出されるだろう。


そして法も、文化も何も分からない異界の地であのような無能男が生きていけるはずもない。


きっと三日後にはそのへんで野垂れ死をすることになるだろう。


二人はそんな男の運命を笑い、手を振って男を送り出した。


「さて、勇者様。邪魔者が消えたところで食事といたしましょうか。勇者様を歓迎するために豪華なディナーを用意しています」


男が連れ去られた後、二人はシスティーナによって豪華な夕食を振る舞われた。


この世界で最高級の食材が使われているという食事は、二人の元いた世界の食事と比べても決して引けを取らないものだった。


二人は豪勢な食事を振る舞われ、お酒を出され、満腹になった後、とても広い寝室に通された。


そしてそれぞれに何人もの使用人が付き従い、身の回りの世話は彼らが全てやってくれることになったのだった。


「最高だな」


「ええ。私たちはやっぱり勝ち組よ。選ばれたものだわ」


「ああ。違いない」


予想のはるか上をゆく歓待、扱われ方に、二人はこの世界においても自分たちは“選ばれた側の人間”であることを確信するのだった。







「さて……勇者様の取り込みには成功しました。これをどう利用しましょうか…ふふふふふ…」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る