第110話
地面を蹴って一気にロイドに肉薄した俺は、腰の剣を抜いた。
ロイドが果たして反応できるのかわからなかった俺は、怪我をさせたくなかったため、剣の原でロイドの脇腹を狙う。
ギィン!!
「…!」
俺の剣の腹がロイドの脇腹に触れようとした次の瞬間、ロイドが一瞬で手にした短剣で俺の攻撃を弾いた。
鋭い金属音がなり、俺の攻撃が跳ね返される。
ロイドの反応が間に合ったことに安堵していると、ロイドが顔面へと迫ってきた。
攻撃を防いだ直後にすぐに反撃に出てきたようだ。
例の如く俺の体は勝手に回避行動を取り、上半身を反らした。
鼻先をロイドの拳が掠める。
俺はそのまま体を回転させ、バク転をして後方に着地する。
「…!」
地に足がついた瞬間、ロイドが目の前に迫ってきているのを目視した。
後方に逃げた俺に対して即座に距離を詰めてきたらしい。
バシ!!
ドガ!!
バキッ!!!
拳や蹴りが、連続して繰り出される。
何かの武術なのか、ロイドの拳や蹴りはしっかりとした型にハマっているような感じがした。
洗練されていて速い。
だが防げないほどに早くもない。
俺はそれらを危なげなく、自分の拳や足で受け止め、胴体への直撃を避ける。
ロイドの拳や蹴りは重いと感じたが、女神の加護のおかげかダメージにはならなかった。
しばらく鈍い音が連続して草原地帯に響いた。
俺はロイドの攻撃を防ぎ続けた。
「…っ」
ロイドの回し蹴りを俺が肘と膝で挟んで受け止めたところで、ロイドがバッと後ろに飛び去り距離を取る。
「…」
結局一撃もロイドの攻撃を被弾することがなかった俺は、軽く息を吐いてロイドを見据える。
ロイドが驚いたような表情で俺を見ていた。
「速い」
「…?」
「今までで一番、お前が速い」
ロイドがまるで自分でその事実を確かめるようにそう口にした。
「あ、ありがとう」
俺は思わずお礼を言ったがロイドの表情は動かなかった。
「速いだけじゃない…強い。反応速度も申し分ない……正直驚かされた。最初のあれは……完全に想定外だった…反応するのがやっとだった」
「最初の…?」
脇腹への攻撃のことを言っているのだろうか。
ロイドは、ぶつぶつと言葉を紡ぎ続ける。
「まさかこの俺が手加減されるとは…最初の……あの攻撃。お前は……俺を傷つけてしまわないかと心配して……わざとああいうふうにした。殺すつもりなら、もっと威力も強くできたはずだ。お前には…殺意がなかった…」
「…」
どうやら手加減していたのを気づかれていたらしい。
プライドを傷つけられたと言わんばかりにロイドが悔しげな表情を浮かべる。
「こんなこと初めてだ……俺の攻撃をこれだけ耐えられたのもお前が初めてだ……こうして戦ってみて、底知れないという感覚を覚えたのも初めてだ……とても新鮮だ…」
ロイドは悔しがると同時に感動しているようでもあった。
全身から放たれる殺気がさらに強くなる。
「頼みがある」
「な、なんだ…?」
「殺すつもりで来てくれ」
「…!?」
ロイドがギラついた目で俺を睨みながらいった。
「ようやく会えたんだ……強いやつに。楽しめるやつに……。だから……お互いの全力で戦いたい」
「いや、それは…」
「俺はこの戦いで死んでも構わない……お前のような強いやつに殺されるのなら本望だ。だから、俺の命の心配などせず、全力で殺しに来てくれ」
「…悪いがそれはできない」
流石に物騒すぎる。
この人どんだけ戦闘狂なんだとそう思った。
ロイドは戦いの中で死んでもいいのかも知れないが、俺はロイドを殺したくなかった。
「なぜだ……どうして全力を出してくれない…?」
「俺は誰も殺したくないからだ」
「俺は死んだって構わない」
「そうかも知れないが、俺が、殺したくないんだ」
「…」
そういうとロイドが一瞬がっかりしたような表情を浮かべる。
先ほどまで闘気に満ちていた瞳から一気に生気が失われる。
まさかそんなに落ち込むとは思わなくて、俺はちょっと気の毒になってしまった。
「悪い…でも、俺はロイドさんを傷つけたくないから。もしあれなら…お金返すけど…」
「金なんていらん」
ロイドが言った。
その表情には影が差していた。
気づけば一度失われた闘気のようなものがその目に再び宿っていた。
「あんたと全力で戦えなくちゃ意味ないんだ……俺はそのために生きてきた。より強い奴と戦うために」
「はぁ」
「だから……先に謝らせてくれ。本当にすまない。俺は今からあんたを全力で攻撃する」
「え…」
「そうすればあんたも全力を出さざるを得ないだろ」
「ちょ…ま」
俺は急いでロイドを止めようとする。
だが間に合わなかった。
ロイドの姿が目の前からかき消えた。
背後から鋭い殺気を感じた。
咄嗟に俺は身を翻し、半身を逸らす。
俺の顔のあった場所をロイドの短剣のヤイバが通過した。
避けて初めて、ロイドが驚くほどの速され俺との距離を詰め、背後を取り、頭部へと向かって攻撃を繰り出したのだと理解した。
おそらく頭部を狙った短剣による攻撃には、当たれば俺を仕留められるだけの威力が込められていたかも知れない。
先ほどとは比べ物にならないほどの速さ、攻撃の威力。
俺はロイドが言葉通り全力で俺を殺しにきたのだと、瞬時に理解した。
(やるしかない…!)
ステップでロイドから距離をとりながら、俺は覚悟を決める。
ロイドは強い。
流石に勇者ほどとは言わないが、それでも手加減して倒せるような相手でもない。
俺は全力でロイドを迎え撃つために構えをとった。
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