第109話
突然現れたロイドという男についていき俺は街を歩く。
「おいあれ…」
「嘘だろ!?」
「黒衣の騎士…!?本物か…!?」
「まだこの街にいたのか…」
「あれが噂の最強のSランク冒険者……」
街を歩いていると、すれ違った人々が次々に振り返り、信じられないと言った表情で二度見している。
俺ではなく、主にロイドが注目を集めていた。
どうやらこのロイドという男、かなりの有名人らしい。
一体どのような素性なのだろうか。
今の所システィーナの送り込んできた刺客とか、権力者が俺を始末するために派遣した掃除屋だとかそんな雰囲気ではない。
ロイドの目的地が一体どこなのかはわからないが、少しでも情報を引き出そうと俺は話しかけてみる。
「あの……あなたって一体何者なんですか?」
「俺はロイド。冒険者だ」
ロイドは振り返らずに短くそう答えた。
それはさっき冒険者ギルドでも聞いた。
これだけだと全く情報を得られない。
俺はさらに掘り下げて尋ねる。
「有名なんですか?随分注目されているようですが」
「さあ。知らん。興味もない」
「その……よければランクを教えていただけますか…?」
「Sだ」
「そう、ですか」
「ああ」
「…」
「…」
それきり会話は途切れてしまう。
未だロイドの素性は知れないが、とりあえずSランクの冒険者なのは周りの反応を見るに確かなのだろう。
ロイドのような強者の気配を嗅ぎ取る能力は俺には備わってはいないのだが、ロイドの纏っている雰囲気は確かに強そうな印象を与えた。
「その……どうして俺と勝負を?」
俺はどうしてロイドが俺に勝負を仕掛けてきたのかを知りたくてそう尋ねた。
怨恨とかそういうのではないはずだ。
ロイドと俺は初対面。
恨まれるような覚えはない。
「お前が強いと聞いたからだ」
それ以外に何がある?
そんな調子でロイドは答えた。
「どのぐらい強いのか、試したい」
「…なるほど」
戦闘狂タイプか、と俺は思った。
とにかく強い奴と戦いたい、という性格なのかも知れない。
「今までも他の冒険者と勝負を?」
「ああ」
ロイドが吐き捨てるように言った。
「どいつもこいつも話にならない雑魚だった。この街のSランクとは全員勝負した。全て俺が勝った。取るに足らない雑魚ばかりだった」
「…そう、ですか」
ちょっと怖くなってきた。
この街の全てのSランクにこうして勝負を仕掛けてきたのか。
あまりにも戦闘狂すぎる。
しかも口調からして、かなり圧勝してきたような様子がある。
お金がもらえるならと安請け合いしてしまったが、俺は大丈夫なのだろうか。
「強いやつと戦いたいのに、もう俺より強いやつがあまりいない」
「…っ」
ロイドがちょっと悲しい感じていった。
「お前は俺をがっかりさせないでくれよ」
「…ど、努力します」
命の危機が迫ったら聖剣召喚も視野になんとか生き延びよう。
俺はそんなことを考えながら、ロイドについていく。
「ここだ。ここなら存分に戦える」
ロイドについて歩くこと1時間程度。
カナンの街をでたロイドはだだっ広い草原地帯へとやってきていた。
周囲には何もない青々とした草が生い茂っているだけの平地。
ロイドのいうようにここなら全力で戦っても周囲に被害は出ないかも知れない。
「さあ、早くやろう」
待ちきれないと言ったようにロイドがそう言った。
その全身から闘気のようなものが発せられる。
周囲の空気が一気に張り詰めた。
「ちょ、ちょっと待ってください……本気でやるつもりですか…?」
俺は今にも飛びかかってきそうなロイドに慌てていった。
ロイドがギラついた目で頷いた。
「ああ……本気でこい。そうでないと意味がない」
「いやでも……流石に危ないですって……」
自分の身も心配だが、ロイドを案ずる気持ちもあった。
戦場で勇者を二人同時に相手どった俺が本気を出せば、ロイドを傷つけてしま雨かも知れないと思った。
勝負をすると言っても殺し合いはごめんだった。
「大丈夫だ……俺は強い……全力でこい。殺しはしない。回復薬もたっぷりある。命は保証する……俺はどうなっても構わない……だから頼む。全力で来てくれ」
「わ、わかりました……どうなっても知りませんよ?」
ここまできたら覚悟を決めるしかない。
俺もロイドを大きく傷つけないように気をつけながら、ほどほどに戦ってこの場を切り抜けよう。
そんなことを考えながら俺はロイドと対峙した。
「いつでもこい。先手はそちらからでいい」
「それじゃあ、遠慮なく」
俺は踏み込み、地面を蹴って一気にロイドに肉薄する。
「…!?」
前を向くとロイドが心底驚いたような表情を浮かべていた。
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