第47話


作戦はうまくいった。


当初無謀だと一喝された俺の思いつきは、驚くほどうまく機能した。


俺とヴィオネッサが、ポイズンインセクトを引き付けている間に、アリッサとイリスは手際よくダンジョンクリスタルを回収してくれた。


ヴィオネッサは、自前の加護と俺の回復魔法の助けを借りてポイズンインセクトをダンジョンクリスタルから引き剥がし、遠くへと追いやることに成功していた。


ポイズンインセクトを倒す必要はなかった。


ヴィオネッサは体当たりを繰り返し、ポイズンインセウトをとにかくダンジョンの奥へと吹っ飛ばすことに専念していた。


ポイズンインセクトは、ヴィオネッサの攻撃を受けるとすぐに毒霧の攻撃を噴射したが、その度に俺はヴィオネッサに対して何度も回復魔法を使って彼女を守った。


「よし終わったぞ!!」


「二人とも!!もう十分だ!引き返してこい!!!」


そんなふうにヴィオネッサと連携してポイズンインセクトを引き付けていると、やがて背後からアリッサとイリスのそんな声が届いた。


どうやらダンジョンクリスタルの回収が終わったらしい。


俺たちの囮の役目は終わった。


「ずらかるぞ」


「は、はい…!」


俺はヴィオネッサと共にポイズンインセクトの前から逃げ出す。


『ギシェェエエエエ…』


ポイズンインセクトは鳴き声をあげて俺たちを追ってこようとしたが、その動きは鈍かった。


おそらくヴィオネッサから貰ったダメージで動きが鈍っているのだろう。


結局俺たちはポイズンインセクトに追いつかれることなく、ダンジョンクリスタルを回収し終えたアリッサとイリスと合流し、そのままその場を後にしたのだった。


そしてその後、何度かのモンスターとの交戦を経てついに地上に帰還することに成功した。


「いやー、危なかった…」


「ギリギリだったな…!」


「クエスト達成!!クリスタル回収できてよかったぜ…」


「なんとかなりましたね…」


ダンジョンを脱出した俺たちは、戦利品のダンジョンクリスタルを持ってギルドへと向かっていた。


これからクエスト達成報告をして、報酬をもらうのだ。


「しっかし……まさか回復役の考えた作戦がああも上手くいくとはな」


「聞いた時は無茶苦茶な作戦だと思ったが……上手くいってよかったぜ…」


「疑って悪かったよ。あんたは名将だ!今回のクエストが達成できたのは間違いなくあんたのおかげだぜ」


三人がそんなことを言いながら、バシバシと俺の背中を叩いてくる。


尊敬している上級冒険者に褒められて照れ臭くなった俺は、頭をかいて誤魔化した。


「いや…俺は特に何も……ヴィオネッサさんが体を張ってくれたおかげですよ」


「謙虚だなぁ…」


「お前、才能はあるのに自我が弱いよな…」


「もっとガツガツしてもいいと想うぜ?まぁ、私は謙虚なあんたの性格が嫌いじゃねーけどよ。冒険者の中では珍しいのは確かだな」


そんな感じで三人と今回のクエストについて話し合っている間にギルドに到着。


そこで成果物であるダンジョンクリスタルをギルドに提出し、俺たちは報酬を受け取った。


「ほいよ、これがあんたの取り分」


「え…!?こんなに!?」


ギルドから受け取ったクエスト報酬を、リーダーのアリッサが俺たちにわけてくれた。


だが、他の三人に比べて明らかに俺の報酬が多かった。


俺は何かの間違いじゃないかとアリッサを見る。


アリッサがニッと笑って俺の肩に手を乗せた。


「受け取れない、なんていうなよ。それは正当な報酬だ。今回クエスト達成できたのはマジにあんたのおかげだからな」


「そうそう」


「間違いねぇ」


アリッサの言葉に、イリスもヴィオネッサも同調する。


「でも…」


三人の気持ちは嬉しかった。


しかし、やっぱり他の三人より多く報酬を受け取るのは気が引けた。


結局ポイズンインセクトとの戦いで体を張ったのはヴィオネッサだったし、下層での戦闘に俺はほとんど参加していない。


なのに俺が他の三人より多い報酬を受け取る権利はないと思った。


「いいって、受け取れよ」


「私らが受け取って欲しいんだ」


「その代わりといっちゃなんだが……これからも私らを贔屓にしてくれよ。あんたは有能で引っ張りだこだろうが……また私らとパーティー組んでくれ。いいか?」


「そ、それならもちろん」


むしろ俺から頼んで彼女たちと組みたいぐらいだ。


俺は速攻で頷いた。


「よし、じゃあ、そういうことだから」


「あ、そうだ。この後私ら、パーティーホームで宴やるけどお前もくるか?」


「う、宴…?」


「そう」


「クエスト達成した日はやるって決めてんだ。息抜きも兼ねてな」


「酒飲み放題、食い物食べ放題だぜ?楽しいぞ?こいよ」


「へぇ…楽しそうですね…」


「「「…」」」


「で、でも…遠慮しておきます…」


「「「ちっ」」」


「…!?」


なんか、一瞬三人の目が据わったような気がして本能的な恐怖を感じて断ってしまったんだが……舌打ちされた?


「ああ、いや…なんでもない」


「そうか…じゃあ、またの機会にな…」


「残念。今回はものにできなかったか…」


「そ、それじゃあまた…」


なんか不穏なことを言い残して、三人は夜の街へ消えていった。


「か、帰るか…」


三人の背中が見えなくなるまで見送ってから、俺も泊まっている宿へ向けて歩き始めたのだった。


〜あとがき〜


近況ノートにて3話先行で配信中です。


ぜひチェックしてみて下さい。



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