第46話
「はぁ?」
「どういうことだ?」
「気でも触れたか?」
三人が正気か?という目で俺を見てくる。
確かに俺自身でもかなり無茶な発想だったとは思う。
でも……ここまできてクエスト失敗というのは俺としても悔しい。
それにあながち不可能だとも思えないんだよな。
「俺が囮になって、ポイズンインセクトをクリスタルから引き剥がします。その間に三人でクリスタルを回収してくれませんか?」
「却下だ」
「無理に決まってる」
「何を言い出すのかと思えば…」
三人は完全に俺に呆れてしまっているようだった。
アリッサが呆れた表情で頭をかきながら言った。
「あのなぁ……囮になるって…どうやるんだよ?毒霧はどうする?流石に無茶があるだろう」
「俺は回復魔法が使えます。なので……自分に回復魔法を使いながら接近すれば、毒霧を喰らっても大丈夫だと思います。多分、死ぬことはないかと」
「いや、確かにお前の回復魔法は強力だが…いくらなんでも強行突破すぎるだろう……お前にそんな無茶はさせられない」
「でも…それ以外に方法が…」
「うーん……確かにそうだが…」
「せっかくここまできたので俺は諦めたくありません。やらせてくれませんか?」
俺の考えた作戦はつまりこうだった。
俺が自身に回復魔法を使い、毒霧を無効化しながらポイズンインセクトに接近し、必要によっては多少の攻撃を加える。
ポイズンインセクトは当然俺に反撃してくるはずだ。
俺はそのままポイズンインセクトを引き付け、ダンジョンクリスタルから離れる。
そうやって俺がポイズンインセクトを引き付けている間に、他の三人がダンジョンクリスタルを回収する。
ことが済んだら俺も三人と一緒に逃げる。
かなり無茶な作戦に思えるが、しかしこの状況を打開するには俺にはこれぐらいしか方法がないように思われた。
「どう思う?」
「そうだなぁ…」
「最初は無茶だと思ったが……試してみる価値はあるか?」
三人がだんだんと乗り気になってきた。
もうひと押しすればいけるかもしれない。
「やらせてください。俺、回復魔法だけには自信があるんです。一応、今日の訓練で戦闘も少しはできるようになりましたし……きっとうまくいくと思うんですが…」
「「「…」」」
三人は難しい表情で悩むような様子を見せた後、互いに頷き合って俺の方を見た。
「わかった。乗ろう。お前の案に」
「はっ。まさか臨時メンバーにこんな無茶な提案をされるなんてな……だが、悪くないやり方に思えてきた」
「私らじゃ他に方法を思いつかないからな。お前のやり方でやってダメなら諦めよう」
「ありがとうございます!」
「ただし、だ」
「囮になるのはあんたじゃねぇ、私だ」
「え…ヴィオネッサさんが…?」
ヴィオネッサがまかせろと言わんばかりに力瘤を作って、パシパシと腕を叩く。
「私は対毒の加護を持ってるからな……もちろんポイズンインセクトの毒を完璧には防げない。だが…お前の回復魔法の手助けがあれば、毒霧を攻略できるかもしれない」
「大丈夫なんですか?」
「ああ。この中で一番囮に適任なのが私だ。あんたじゃ、もしかしたら回復魔法を使うまでもなく死んでしまうかもしれねぇ。何かの加護を持ってるわけじゃないんだろ?」
「えーっと…そ、そうですね…」
一瞬女神の加護のことを明かしそうになったのだが、異界人だということがバレてしまうかもしれなかったので、俺は黙っておいた。
「臨時メンバーのあんたにあんまり負担はかけられない」
「囮の役目はヴィオネッサがやる。あんたは自分じゃなくヴィオにひたすら回復魔法を使ってやってくれ」
「わ、わかりました」
俺は頷いた。
作戦が固まった。
俺たちは二つの班に分かれた。
俺とヴィオネッサの二人は、ポイズンインセクトの囮役。
そしてアリッサとイリスがダンジョンクリスタルの回収役だ。
「お前ら準備はいいか?」
作戦を再度確認しあった後、ついに実行の時になった。
俺たちはそれぞれの配置について、リーダーの合図を待つ。
「よし、作戦開始だ!!頼んだぞ、二人とも!!!」
アリッサが作戦開始の合図を出した。
「うおおおおおおおおおお」
ヴィオネッサが先陣を切る。
雄叫びをあげながら、毒霧に向かって突っ込んでき、その先のポイズンインセクトを目指す。
「ぐっ…なかなかきついな」
毒耐性の加護を持っているとはいえ、やはりポイズンインセクトの毒霧は堪えるようだ。
ヴィオネッサが毒霧地帯に入った途端に痛そうに表情を歪め、動きを鈍らせる。
「パーフェクトヒール!!」
俺はすかさず回復魔法をヴィオネッサに対して使用した。
ヴィオネッサの体が光に包まれ、毒霧の効果が一瞬払拭される。
「よっしゃあああああああ!!ありがとよぉおおおおおお!!!」
元の動きを取り戻したヴィオネッサがそのままポイズンインセクトに対して突っ込んでく。
そしてその巨大な盾と共に、壁に張り付いたポイズンインセクトに体当たりを喰らわせた。
「おらああああ」
『ギシェエエエエエエエエエ!?!?』
ポイズンインセクトが耳を塞ぎたくなるような鳴き声をあげる。
ブシュゥウウウウウウ
ヴィオネッサに向けて毒霧攻撃が発射された。
「パーフェクトヒール!パーフェクトヒール!パーフェクトヒール!」
俺はヴィオネッサに回復魔法を使いまくり、毒霧の効力を無効化する。
「よっしゃあああああああ!!もういっちょぉおおおおおお!!!!」
ヴィオネッサが地に落ちたポイズンインセクトに再度体当たりを喰らわす。
バァン!!!
『ギシェェエエエエエエエエエ!?!?」
ポイズンインセクトは耳障りな鳴き声と共にさらにダンジョンクリスタルから離れたところに吹っ飛ばされた。
「パーフェクトヒール!!大丈夫ですか!?ヴィオネッサさん!?」
俺は回復魔法を使いながら、ヴィオネッサについていく。
「おう、こっちは大丈夫だ!あんたの回復魔法のおかげでな!!アリッサ、イリス!そっちは頼んだぞ!さっさとクリスタルを回収しろ!!私とこいつでこの虫野郎は引き止めておくからよ!!」
「あいよ!」
「まかせろ!」
アリッサとイリスがすぐに動き出す。
壁に埋まったダンジョンクリスタルを回収する作業に手っ取り早く取り掛かる二人を横目に、俺はヴィオネッサと共にポイズンインセクトの囮役に徹する。
「もう一回体当たりであいつをさらに奥へ吹っ飛ばす……いけるか?」
「はい、魔法はいつでも」
「よっしゃ」
ヴィオネッサが不敵な笑みを浮かべ、盾を構える。
俺はいつでも回復魔法を使えるように彼女の背後で準備をするのだった。
〜あとがき〜
近況ノートにて3話先行で配信中です。
ぜひチェックしてみて下さい。
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