第6話
城下町はまさに中世ヨーロッパという形容が相応しいような街並みだった。
俺はゲームの世界にでも迷い込んだかのような気持ちでその街を歩き、寝床と食料調達ができそうな場所を探し回った。
しかし数時間かけて街を歩いて得たものは、おおよその地図ぐらいなもので、肝心の寝床や食料を得ることはできなかった。
当然と言えば当然だった。
元の世界よりも文明的には遅れているとはいえ、この世界にも貨幣経済が浸透している。
それはつまり、お金を持っていなければなにをすることもできないことを意味し、王城を放逐される時にわずかなお金すらもらえなかった俺にははっきり言って打つ手がなかった。
一応その辺の通行人に宿の場所を聞き、なんとかつけで一晩止めてもらえないかどうかを尋ねたのだが、門前払いを食らった。
腹が立ったが、相手の立場で考えてみれば当然の対応と言えた。
突然俺みたいなやつが宿に押しかけてきて、ツケで泊めてくれなんて無理がある。
あの強面の宿主は商売人として至極真っ当な判断をしたわけだ。
「マジか…」
日が暮れて街が闇に包まれる。
俺は橋の下に身を隠し、肌寒さに身慄いしながら今日はもうここで夜を明かそうとそんなことを思った。
「あのー、そんなところでなにをしているんですか?」
「…!?」
橋の下で身を縮めていると、不意に声をかけられた。
思わず顔を上げて上を見上げる。
橋の上から、修道服のようなものに身を包んだ綺麗な女の人が俺を見下ろしていた。
俺は思わず自分を指差して声をかけられたことを確かめてしまう。
「そうですよ、あなたです」
女の人が微笑んだ。
「私、この近くの教会でシスターをしているマリアンヌというものですけど……泊まる場所がないなら、どうぞいらっしゃってください」
「…い、いいんですか?」
「ええ、もちろんです」
修道服姿の美しい女の人……マリアンヌが慈愛の笑みを浮かべながら言った。
「困った人を助けるのが私どもの勤めですから」
「ここです。どうぞ」
「ありがとうございます」
マリアンヌさんについていって案内された教会はお世辞にも立派な施設とは言えなかった。
天窓の一部が割れたり、並べられた椅子や机が朽ちたりしていた。
しかしそれでも一晩雨風を凌げる屋根の下で寝られるだけで、今の俺にとってはありがたい。
マリアンヌさんの話によれば、この教会には数人のシスターと親のいない孤児が二十名ほど暮らしており、街の人たちの寄付でなんとか成り立っているらしい。
「あなたの分の毛布がないので……誰かと一緒に寝てもらうことになります」
「わ、わかりました…」
物資不足の教会には余分な毛布がないらしい。
なので俺は奥の部屋で寝ている孤児の子供達と一緒に雑魚寝をしなくてはならないらしい。
「もしかしたらそうは見えないかもしれませんが、皆とてもいい子達なんです。仲良くお願いします」
「わ、わかりました…」
「それでは朝になったら様子を見にきますね。おやすみなさい」
マリアンヌさんが去っていき、俺は孤児たちが雑魚寝している部屋に一人残される。
「えーっと……だ、誰か俺と一緒に寝てくれる人〜」
「あっちいけよ」
「俺のところに来るなよ」
「絶対に嫌だ」
俺のことを警戒しているのか、孤児たちは冷たい言葉で俺を拒絶する。
「…」
仕方ない。
少々冷えるが毛布なしで寝るかと俺が地べたに寝転ぼうとしたその時だった。
「こっち、いいよ」
「え…?」
優しい声が聞こえてきた。
小さな少女が、毛布の中から顔を出してこちらへ手招きをしている。
「いいのか?」
「うん…あったかいよ」
「…ありがとう」
10歳ぐらいの少女と毛布を共にすることに若干の罪悪感を覚えたが、しかし好意を無碍にすることはできない。
俺は少女の毛布の中にありがたく入らせてもらう。
本当だ、あったかい。
「おやすみ」
俺が毛布の中に入ったのを確認すると、少女は早々に目を閉じてしまった。
すぐに隣から寝息が聞こえてくる。
「…」
俺も寝るか。
そう思い、目を閉じる。
1日色々ありすぎて疲れが溜まっていたからか、眠気はすぐにやってきた。
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