第7話


「んぅ…」


「おはようございます」


「うお!?」


目覚めると、すぐ近くに美女の顔があった。


俺は驚いて飛び起きてしまう。


慌てて周囲を見渡せば、毛布にくるまって寝ている子供達の姿が目に入った。


俺はだんだんと昨日の出来事を思い出す。


そうだった。


行き倒れそうになっていたところを、優しい教会のシスターさんに助けてもらったんだった。


「よく眠れましたか?」


マリアンヌさんが笑みを浮かべながらそう尋ねてくる。


俺は頭をかきながら頷いた。


「おかげさまで……泊めていただいて本当に助かりました」


「あら……昨夜はシエルと一緒に寝たんですね?」


「うぅ…寒い…」


隣を見れば、昨夜俺を毛布の中に入れてくれた少女が寒そうに身を縮めている。


「そ、そうなんですよ…ハハハ…」


10歳ぐらいの少女と一緒に寝ていた事実を知られてちょっと気まずくなる俺。


誤魔化すように笑っていると、マリアンヌさんは意外そうに言った。


「珍しいですね…シエルはあまり他人に心を許さない子なのですが…」


「そうなのですか?」


「はい…傷のせいで……なかなか周囲の子供と打ち解けてくれないのです」


「傷?」


「ええ…ここです」


マリアンヌさんが右目をなぞった。


「そうなんですね」


どうやらシエルは目に傷があるらしい。


昨夜は暗い中だったので気づかなかった。


今も、傷のある右目を隠すようにして寝ている。


マリアンヌさんの話によれば、シエルは傷のことを恥じており、なかなか周囲の子供達と打ち解けられないらしい。


「もしかしたらあなたに懐いているのかもしれません。これからも優しくしてあげてくださいね」


「それはもちろんですけど……えっと、これからも?まだ俺、ここにいていいのでしょうか?」


「お困りなのでしょう?もちろん、教会に余裕はないので、あてがあるなら出ていってもらうのが子供達のためにも望ましいのですが…」


「すみません…実はこの街になんのあても頼れる人もいなくて…どうかもう少しだけここに置いていただけないでしょうか」


俺が頭を下げてそうお願いすると、マリアンヌさんはにっこりと笑って受け入れてくれた。


「わかりました。でもその代わり子供達と一緒に働いてもらいますからね?」


「もちろんです。なんでも言いつけてください」


「うふふ。決まりですね。では、朝食にしましょう。子供たちを起こすのを手伝ってくださる?」


「はい」


俺は暫定的な寝床と食料の確保に内心安堵しながら、マリアンヌさんと共に子供たちを起こしにかかるのだった。




寝ている子供達を起こした後、皆で朝食をとった。


出された朝食は、薄いスープとひとかけらのパンで、味も薄く量も到底足りなかったが、贅沢は言っていられない。


この教会にとって俺はお荷物だ。


早いところ寝床と食料を確保して自立しなければと心に誓った。


朝食を食べた後は、子供達と共に教会の掃除をした。


箒で埃を吐いたり、濡れた布で机や椅子を拭いたりした。


その間中、シエルはずっと俺の後ろをついてきていた。


マリアンヌさんの言っていたように何故だか俺に懐いているようだった。


ずっと右目を片手で隠しながら、俺の後ろについてくる。


「他の子のところに行かなくていいのか?」


「ここでいい」


「そうか」


他の子供達とはあまり仲良くないらしい。


せっかく懐いてくれたのに追い返してしまうのも可哀想なので、俺はシエルの好きにさせていた。


「あれは何をしているんだ?」


掃除の間にふとマリアンヌの方を見ると、彼女は鎧を纏った男と話をしていた。


その男が、腕の部分の鎧を外す。


男の腕には、大きな切り傷があった。


痛みに顔を顰めながら、男が傷ついた腕をマリアンヌに差し出す。


するとマリアンヌがその腕に手を翳し、何事か唱えた。


直後、男の腕が光に包まれた。


「傷の治療」


俺の疑問に、シエルが答えた。


「マリアンヌは治癒魔法が使えるから……騎士さんとか冒険者さんが傷を治してもらいにくるの…それで、ちょっとだけお金が稼げる」


「そうなのか」


光が治ってみれば、騎士の腕の切り傷はちょっとマシになったように思えた。


騎士はマリアンヌにお礼を言って、お金を渡し教会を出ていった。


マリアンヌは慈愛の笑みで、騎士を見送る。


「治癒魔法、か…」


そういや俺のステータスにも魔法があったようなと唐突に思い出す。


シエルが他所を向いているのを確認してから、こっそりとステータスを表示して確認してみる。


「あった」


完全治癒(パーフェクトヒール)。


魔法の欄には確かにそう書いてある。


治癒魔法とはこれのことなのだろうか。


試してみる価値はあるな。


「シエル。ちょっといいか…?その目の傷のことなんだが」


「…!?」


俺がシエルにそう声をかけると、シエルの体がビクッと震えた。

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