第29話


「お、もしかしてあれか…?」


街を出てから歩くこと三日。


ついに前方に目指していた街の外壁が見えてきた。


地図通りに進めていたことに安堵するとともに俺は隣国の街へと近づいていく。


街をぐるりと囲むような形で存在している外壁にはくり抜かれるようにして幾つかの入り口が存在しているようだった。


俺はその中の一つに近づいていく。


入り口は、鎧を着た兵士たちによって守られており、検問作業のようなものが行われているようだった。


「止まれ」


「通行証を見せろ」


街の中へ入ろうとすると、入り口を守っていた兵士たちが俺の前に立ちはだかった。


俺はごくりと喉を鳴らす。


当然ながら通行証なるものは持っていなかった。


「通行証がないんですが……ないと払えませんか…?」


俺が恐る恐るそう尋ねると、兵士たちの俺を見る目が少し厳しくなったような気がした。


「通行証を持っていないのか」


「なら、通行料を納めてもらおうか」


「通行料…?いくらでしょうか?」


「この街に来るのは初めてか?」


「はい」


「だったら銀貨10枚だ」


「わ、わかりました…銀貨10枚ですね」


俺はほっと胸を撫で下ろした。


どうやら無事に街の中へ入れそうだ。


銀貨10枚の通行料が高いのか安いのかはわからなかったが、街に入れなければどうすることもできない。


俺は兵士さんたちに言われた通りに通行料を払おうとした。


「お前見ない顔だな」


「え…?」


兵士が俺のことを訝しむようにジロジロ見ながら言った。


「どこからきたんだ?」


「え、えっと……あそこから…」


俺は背後の自分のきた方向を指差す。


兵士の表情がさらに曇った。


「おいおい、お前まさか……」


「あの戦争好きの王女の国から来たのか…?」


「せ、戦争好きの王女…?」


俺は首を傾げる。


兵士たちは明らかに俺のことを警戒し始めていた。


「戦争好きの王女なんて決まってるだろ。システィーナ王女のことだ」


「まさかお前、あの王女が送りつけた刺客じゃないよな?」


「ええっ!?」


俺はシスティーナの名前がここで出たことと、いきなり刺客などと呼ばれたことに驚きの声をあげてしまう。


「ち、違います…!俺はただの旅人で…」


「旅人か…どうだか」


「あのイカれた王女は今度、戦争に利用するために異界人を召喚したって噂もあるからな……まさかお前がそうじゃないよな?」


「…っ」


ビクッと体が震えてしまった。


我ながらわかりやすい反応をしてしまったと思う。


確かに俺は異界人だ。


しかしシスティーナの刺客などでは断じてない。


むしろ追放された側だからどちらかというと彼女の敵だ。


というかシスティーナ、あいつ一体この国に何をしたんだろう。


イカれたとかクソッタレとか相当な言われようだ。


異界人を戦争に利用するために召喚した、てのも聞き流せない。


いや、それよりも何よりも今はとにかくこの状況を切り抜けなければ。


兵士たちはどんどん俺に対する疑いを深めているようである。


「あの戦争好きの王女はまた戦争するための準備を整えていると聞いている」


「敵国の街であるここへ刺客、密偵の類を情報偵察のために送りつけてくることも考えられる」


「はっきり言ってお前は怪しい」


「一体何のためにこの街に来た?」


「ほ、本当に刺客とか密偵じゃないです。俺はただ冒険者になるためにこの街に来ました……あの、もし通行料が足りないのでしたら、よければこれを受け取ってくれませんか?」


俺は背に腹は変えられないと、周りにいる兵士たちに一人一枚ずつ金貨を握らせた。


すると兵士の俺を見る目がわかるやすく変わった。


「怪しいと思ったが気のせいだったかもしれん」


「すまない。少し警戒しすぎた」


「怪しいものを検問するのが我々の職務なのでな。それはわかっていただきたい」


「いえいえ」


わかりやすいなぁ。


そう思いながら俺はニコニコ笑顔を浮かべる。


「どうぞ、通ってください」


「あなたは大丈夫そうだ」


「先ほどは失礼を言ってしまい申し訳ない。

あなたには何も問題はないようだ」


「ありがとうございます。それじゃあ」


兵士たちに敬礼され、俺は無事に街の中へ入ることが出来たのだった。





「おぉ…結構栄えてるな…」


街へと入り、俺は石畳の道を歩く。


綺麗に舗装された石畳の道の両脇には露天商がずらりと並び、客を呼び込んでいる。


あちこちから香ばしい匂いが漂ってきて食欲をそそられる。


道ゆく人々はさまざまで、冒険者風の男たち、魔法使いのローブのような服に身を包んだ者たち、商人のような男、それから鱗を持った皮膚をもつもの、獣の耳や尻尾を持つものなど、さまざまな種族、職業の人々が入り乱れている。


体感だが、俺が前にいた街よりもこちらの方が栄えているようだ。


しばらくの間、目新しい街並みを、都会へ出てきた田舎者のようにキョロキョロしながら楽しんでいた俺は、この街へ来た目的を思い出す。


「そうだ、冒険者ギルド……見つけなきゃな」


冒険者ギルドで働いていた俺は、冒険者になるには冒険者登録なるものが必要であることを知っている。


それをやるためにまずは冒険者ギルドへ向かわなければ。


「誰かに道を聞くか…」


俺はキョロキョロと辺りを見渡す。


道ゆく人に道を尋ねるか、それとも露天商で買い物をして腹を満たしながら店主に聞く

か。


どちらにしようか迷っていると、小脇から小さな子供が近づいてきた。


お世辞にも綺麗とは言えない擦り切れた服を身にまとい、片足を引きずっているその子供は俺の元までやってくると、ぶっきらぼうに言ってきた。


「おじさん、この街は初めて?案内するよ」


「あ、本当?じゃあ、冒険者ギルドまで案内してくれるかな?」


「お金」


「ギルドに案内してからだ。大丈夫。ちゃんと払うから」


「わかった」


子供は頷き、足を引き摺りながら俺を先導して歩き始めた。


俺は痩せた子供の頼りない背中についていき、ギルドを目指す。

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