第30話


「ここが冒険者ギルドだよ」


ギルドは街の中心に聳えていた。


なかなか大きな施設だ。


前の街の冒険者ギルドの2倍はありそうな敷地と建物。


両開きの扉では、冒険者と思しきものたちが行き来をしている。


「案内してくれてありがとう。助かったよ」


俺は案内してくれた子供にお礼を言って、手の中に金貨を一枚握らせた。


「え…?」


自分の手の中の金貨を眺めて、子供が固まる。


「金貨…?いいの?」


「ああ、いいぞ。ちゃんと案内してくれたからな」


「…」


子供は信じられないと言った表情で自分の手の中の金貨を確かめている。


「本物、だよね?」


「ああ、本物だ」


「本当にいいの?」


「ああ」


「返してって言わない?」


「それは君のものだ」


「僕のもの…」


子供は大事そうに金貨を懐にしまった。


「ありがとう、優しいおじさん。案内が必要になったらまた呼んでね」


「ああ、ちょっと待ってくれ」


お礼を言って立ち去ろうとした子供を俺は呼び止める。


「君のその足……どうしたんだ?引きずっているじゃないか」


「僕の足?」


子供はずっと引きずって歩いている片足を見下ろす。


「ああ。怪我をしているのか?」


「ううん。病気だよ。ずっと前から」


男の子が服を捲って見せた。


引きずっている足は、足の根本から膝あたりが黒く変色していた。


「野良犬に噛まれてから、あんまり動かなくなっちゃったんだ。痛くないよ?」


「…そうか」


見ていて痛々しい子供の足に、俺は自分の手を翳す。


淡い光が子供の足を包み込んだ。


子供の太もも部分を覆っていた黒色が徐々に引いていく。


子供が目を大きく見開いた。


「え…え…?」


「どうだ?治ったか?元通りになったか、足を動かして見せてくれるかな?」


「う、うん…」


子供が頷いてそのへんを歩き回る。


動きが鈍く、ずっと引きずっていた足は、もう片方の足と比べて遜色ない動きを取り戻したようだった。


男の子は、治った片足が自分のものであることを確かめるように手で何度も触れる。


「嘘…治った…の?」


「よかった。治ったみたいだな」


シエルの怪我を治した時に、時間が経った傷でも元通りにできることは検証済みだ。


俺は男の子の足が完全に治っているのを見てほっと安渡する。


男の子は足が治ったことを喜ぶようにしばらく俺の周り小走りでかけた後に言った。


「おじさん…すごい人なの…?」


「どうだろう?治癒魔法は得意だぞ。足が治ってよかったな」


「うん…」


子供が走るのをやめた。


俺の前までやってきて、無垢な瞳でじーっと俺のことを見つめてくる。


「どうかしたか?」


「どうしたらいいかわからない」


「え…?」


「こんなに優しくされたの初めてだから、どうしたらいいかわからない」


「…そうか」


なんとなくこの男の子がこれまで歩んできた人生が見えた気がした。


俺は子供と同じ目線になるようにしゃがんで、にっこり笑っていった。


「親切にしてもらった時はありがとうでいいんだぞ」


「ありがとうおじさん」


「おう。こちらこそ、案内ありがとうな」


子供は笑顔で去っていった。


俺は雑踏の中に子供の背中が消えていくのを見守ってから、ギルドの中へ入っていった。




両開きの扉からギルドの中に入ると、そこは酒場のようなスペースだった。


まだ昼間だと言うのに、冒険者と思しきものたちが酒を飲んで顔を赤くしている。


「あぁん?」


「おぉん?」


何人かの冒険者が、ギルドへやってきた俺の姿を見て、ジロジロ不躾な視線を送ってく

る。


ギルドで働いていた俺はすでに彼らのあしらい方をよく理解しているので、目を合わせずに、奥の受付と思しき場所へ向かった。


「うおっ」


「ひっひっひっ」


「へへへ…」


酒場スペースを抜ける時、酔っ払った冒険者たちが俺に足払いをしたり肩をぶつけてきたりした。


これに反応して相手を咎めると喧嘩になることは十分わかっているため、俺は無視を決め込んで、奥の受付へと向かう。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょうか」


なんとか誰とも喧嘩にならずにようやく奥の受付へと辿り着いてみれば、美人な受付嬢さんが、にっこりと俺を迎えてくれた。


どうやら受付嬢が美人なのはどの街のギルドでも共通であるようだ。






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