第93話


「ふぇええ!?こんなにですかぁ!?」


受付嬢が俺がカウンターに並べたダンジョン資源の量を見て、目を剥いている。


カウンターの上には、ダンジョンクリスタルやさまざまな武器や防具の素材に使われるモンスターの牙、鱗などが並べられていた。


全て俺が今日一日のダンジョン探索で地上へと持ち帰ったものだった。


「クエスト分のダンジョンクリスタルとモンスターからとってきた素材です。全部換金でお願いします」


「し、信じられません…これを全部、一日で?たった一人で?」


受付嬢が、本物かどうか確認するかのようにカウンターに並べられた俺の戦果を手で触っている。

「はい、そうです」


俺が頷くと、受付嬢はあり得ないものを見るかのような目で俺を見てきた。


「これ全部でAランククエストの三回分の資源量ですよ……ソロの冒険者で一日でこれだけの戦果をあげる人を見たことがありません……あなた一体何者なんですか…」


「いや…何者と言われましても……普通にこのギルドに所属している冒険者ですが…」


「そんなことわかってますよ」


一体何者なんですかと言われても困る。


冒険者登録の時に個人情報はしっかりと記録を取られている。


おたく所属の冒険者ですよ、としか俺に言えることはない。


でも受付嬢はなんだか納得の行かなそうな表情で俺を見ている。


俺の答えは何か的外れだっただろうか。


「と、ともかく……換金作業に進みますね…これだけ多くの資源を査定するのに少し時間がかかり

そうですが…」


「よろしくお願いします」


受付嬢による査定が始まる。


査定を待っている間、周りの冒険者たちの視線は俺の方へ釘付けだった。


「おいあれ見ろよ…」


「すげぇな…あれを一日でかよ…」


「稼いでるなぁ…」


「あいつ一年ぐらい前にここへきた奴らよな…もうAランク到達かよ…」


「本当にソロなのかよ……あの量のダンジョンクリスタル、よく見つけたな…」


「羨ましいぜ……俺なんて10年冒険者やってBランクだってのに…」


「絶対におかしいぜ……あんなのをソロで一日で本当に集められるか…?」


「何かカラクリがある…インチキしているに違いないぜ…」


「こんだけ早くランクが上がったのも、上級の連中と臨時パーティー組みまくったからだろ?一体どんな手を使ったんだ?」


「さあ。何か汚いことをやってるかもしれんぜ」

冒険者たちは何やら羨ましそうな目線をこちらに送ってくる。


中には嫉妬に近いような睨むような目線を俺に送ってくる奴もいて、ちょっと物騒だ。


冒険者の中には、何年も活動を続けていてもAランクにたどり着けないものもいるらしい。


そういう人たちからしたら俺の存在は疎ましいのかもしれなかった。


「査定が終わりました。これが換金料になります」


「「「「うぉおおおお」」」」


やがて、俺が持ち帰ったダンジョン資源の査定が終了し、受付嬢が換金料をカウンターの上に乗せた。


まばゆい金貨が山のように積まれている。


その量を見て、周りで観察していた冒険者たちからどよめきが起こる。


「すげぇえええ…」


「あれを一日でか…」


「マジかよ…俺の稼ぎの一月分以上あるぜ…」


「Bランクの俺なんて半年かかってもあんなに稼げねぇよ…」


「景気いいなぁ…羨ましい限りだ…」


「あんなにあるんだ…1枚ぐらい俺にくれたって…」


小高い山のようになった金貨を俺はジャラジャラと音を立てて革袋に入れる。


冒険者たちは、口をぽかんと開けてじっとこちらを見つめている。


「依頼達成おめでとうございます。これにて手続きは終了になります」


「ありがとう。それじゃあ」


全ての金を受け取った俺は、受付を後にする。


たくさんの冒険者たちの視線が俺を追っているのに気がついていた。


「チッ」「くそっ」とそんな舌打ちがちらほら聞こえる。


彼らからしたらまだこのギルドにやってきて一年未満の新参者がこれだけ稼いでいるのが気に食わないのかもしれない。


もちろん俺は何も悪いことをしているわけじゃないのだが……しかしあんまり恨みは買いたくないものだ。


ギルドには冒険者同士での争いは最悪冒険者資格の剥奪になるという規則があるのでそう簡単に暴力とかに訴えてきたりとかはなさそうだが……それでも同業者に嫌われているという状態はあまり

好ましくない。


受付で換金作業を終えた俺は、そのままギルドの出口へ向かう……のではなくギルド内にある酒場へと入っていった。


冒険者たちの機嫌の取り方はよく知っている。


俺は財布がわりの革袋に手を突っ込み、酒場のカウンターに金貨を10枚ほど置いた。


そして思いっきり叫んだ。


「今日は俺の奢りだぁああああああああああああああああ!!!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」


雄叫びが上がった。


ギルド内の冒険者たちがたちまち大騒ぎを始める。


酒場の店員たちが忙しく酒を運び始める。


先ほどまで俺に嫉妬の視線を送ってきていた冒険者たちはいつの間にか、酒を片手に俺の背中を笑顔でバシバシ叩いてきていた。


「なんだお前いい奴じゃないか!!」


「今日は宴だぁああああああ」


「兄ちゃん気前いいなぁ!?流石じゃないか!!!」


「今日はご馳走になるぜ、兄ちゃん。ありがとよお!?」


「どうぞどうぞ。飲んでください、食べてください」

俺はニコニコ笑って彼らに食事を促す。


「ひゃっほう!!おい坊主!!今日もありがとよぉおおおお」


ちなみにその場にいた全ての冒険者の中でラーズさんが一番はしゃいでいた。





「はぁ…やれやれ…」


冒険者たちのどんちゃん騒ぎから抜け出してきた俺は、帰路を一人で歩いていた。


暮れなずむ街並みを眺めながら、現在泊まっている宿……ではなく、少し前に購入したマイハウスへと向かう。


そう。


俺は現在、宿に泊まっているのではなく大金をかけて購入したマイハウスに住んでいる。


自分で稼いだクエスト料やダンジョン資源の換金料などで購入したのだ。


イスガルド防衛戦争からもう半年が経過している。


戦争の前までは、俺はランク上げのためにひたすら上級冒険者のパーティーに臨時メンバーとして入り、回復魔法で彼らの冒険をサポートするという活動をしていたが、その後方針を切り替えた。


いよいよ冒険者ランクがBにあがり、ソロでもそれなりに実入りのいいクエストを受けることが可能になったため、ソロでの活動に切り替えたのだ。


たった一人でダンジョンなどに潜り、モンスターと戦うことに若干の恐怖はあったのだが、結果として俺はソロでも問題なくクエストを完遂することができた。


「お前は変わったよ、戦争でな。男の顔になったというか…肝が据わった気がする」


いつか、ラーズさんにそんなことを言われたりした。


イスガルド防衛戦争に参加しそこで勇者とも戦ってから、確かに冒険者活動に関する認識が俺の中で変わった。


戦場よりは危険じゃない。


そう考えると、たとえどんな状況でも冷静でいられるのだ。


そんなわけで毎日のように俺は実入りのいい上級クエストをたくさん受注して、依頼料と素材換金料をたくさん稼いだ。


その結果、家を買えるぐらいのお金を貯めることができたのだった。


持ち家はいい。


前の世界では、自分の家を持つなんて夢のまた夢だったからな。


家を購入した時は、夢が叶って感慨深い気持ちになったのを覚えている。


「さて…帰りますか。俺の家に」


じゃらじゃらと革袋の中で金貨の音が鳴っている。


俺は今日一日の稼ぎを肌身離さずしっかりと持ったまま、心休まる自分の家へと向かってスキップで歩くのだった。



〜あとがき〜


近況ノートにて3話先行で公開中です。

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