第94話


「自分の家の管理ができない?なんだお前、そんなに稼いでて奴隷の一人も持ってねーのか?」


「奴隷?」


ある日。


俺はギルドにてラーズさんにあることを相談し

た。


毎度の如く酒と飯でラーズさんの機嫌をとりながら、得たい情報を得るためにその知恵を拝借する。


今回の相談事というのが、つい最近買った家の手入れが自分一人では行き届かないというものだった。


ソロのAランク冒険者としてそれなりに稼いでいる俺が購入した家は、一人用ではなく10名弱の人数が一緒に暮らせるぐらいには広かった。


もしかしたら将来的に俺も誰かと冒険者パーティーを組むかもしれない、その時にパーティーハウスと呼ばれる拠点に困らないようにと広めの家を購入したのだ。


だが、問題が出てきた。


家が広すぎて一人では管理が行き届かないのだ。


放っておくとすぐに埃が溜まってしまう。


俺はほぼ毎日ギルドに通いクエストを受注して冒険者活動に勤しんでいるので、なかなか掃除などをする時間もない。


そのことをラーズさんに相談したところ、まだ奴隷を持っていないのかと不思議そうな顔をされた。

どうやらAランク以上の冒険者や冒険者パーティーなどは、雑用のために奴隷を持っていることが多いという。


「お前ぐらい稼いでる冒険者は大抵拠点の中に奴隷を飼ってるな。平均で数人ってところか。お前も奴隷を買ったらいいじゃないか」


「奴隷、ですか…」


「おん?坊主、なんだその渋そうな顔は…俺の情報は確かだぜ?俺だってその昔ブイブイ言わせてた頃は奴隷の二、三人持ってたこともある。年取って金がなくなって手放しちまったがな」


「いえ…ラーズさんのアドバイスを疑っているわけじゃないんです…」


ここは前の世界とは違う。


この世界にはこの世界の価値観がある。


そう分かっていてもやはり奴隷には抵抗がある。


人をもののように所持して雑用なんかさせても本当にいいのだろうか。


「奴隷を持つってのはいいことなんだぜ?特にお前みたいな冒険者ランクが高くて、金のある人間の奴隷になれる奴は幸運ってもんだ。売れ残った奴隷の末路は悲惨だからな。端金で鉱山の所有者に売り飛ばされてそこで死ぬまで働かされたり、変態趣味の貴族に引き取られて死ぬよりも悲惨な目にあわされたり…そんなのはどの奴隷も望んじゃいえねl。もしお前が奴隷を買うことを気に病んでるんだったとしたらそれはお門違いってもんだぜ」


「そういうものでしょうか」


「ああ。もし俺が奴隷だったとしたらお前に買って欲しいね」


「…」


ラーズさんが俺の考えを読んでか、そんなことを言って背中を押してくれる。


ラーズさん曰く冒険者は奴隷にとってかなり好まれる買取先らしい。


一番最悪なのが奴隷の命を軽んじている特権階級や、あるいは鉱山の所有者に買われることであり、そうなれば半年以内に命を落とすものもザラだという。


奴隷たちはなるべく真っ当な人間の所有者でありたいと望んでおり、稼いでて勢いのある冒険者は奴隷からも人気だということだ。


「わかりました…奴隷購入、検討してみます」


「おう。なるべく若くて力のある奴隷を買えよ。奴隷商人ってのは悪どい連中が多いからな、足元見てぼられるんじゃないぞ」


「気をつけます。いつも情報ありがとうございます、ラーズさん」


「おうよ」


貴重な情報をラーズさんからもらい、俺はギルドを出た。


思い立ったが吉日という。


俺は今日はクエスト受注をやめて、奴隷商館へ奴隷を見に行くことにした。




「ここか…」


奴隷商館はギルドからそう遠くないところにあった。


道ゆく人に場所を尋ね、1時間と経たないうちに俺はカナンの街で一番大きいという奴隷商館へ辿りついていた。


「入るか…」


意を決して中へとはいる。


店の中には、ずらりと檻が並べられており、その中に鎖に繋がれた人間たちがいた。


皆、ボロボロの奴隷服を見に纏っており、瞳は虚だ。


店の中に入ってきた俺に反応することもなく、目の虚空を見つめている。


店全体に、糞尿の匂いが漂っており、俺は思わず顔を顰めた。


奴隷商館の中は、今まで体験したこともないような異様な空間だった。


「お客様。本日はどのようなご用件でしょうか」

俺が入り口の方で立ち止まっていると、ニコニコとした笑顔で店主らしき男が近づいてきた。


「雑用をさせるための奴隷を買いに来た」


俺が短く要件を伝えると、店主がこちらですとおすすめの奴隷の元へ案内してくれる。


「力仕事ならこちらの獣人奴隷がいいかと。男ですが去勢済みですので、暴力性はあまりありません。玉ありの獣人男と比べれば少々力では劣りますが、それでも我々人間からすれば十分力持ちの部類に入ります」


「…」


それぞれの用途に合わせて体をいじられた奴隷たちを見ていくのはあまり気分の良いものではなかった。


俺は店主に誘われて次々に奴隷を紹介され、やが

て店の奥の方へと辿り着いた。


「ここからは性奴隷のコーナーになります。雑用にはあまり適していないかもしれませんが……簡単な掃除程度なら彼女たちでも大丈夫でしょう。見てください、当店自慢の女奴隷たちです、皆、美人ばかりでしょう?」


「そ、そうですね…」


檻の中に、ボロ布を着せられた少女たちが入れられている。


店主と俺の姿を見ると、怖がるように檻の奥に逃げて体を縮こませる。


「どうでしょう、お客様。彼女たちなら性的な用途でも簡単な雑用でもどちらでも使えますよ。ご予算はいくらぐらいでしょうか?ちなみに私のおすすめは…」


「…!?」


その檻の中の少女を目にした瞬間、俺は思わず呆然と立ち尽くしてしまう。


自分の見ている光景が信じられない。


思わず目を擦って何度も確認してしまう。

 

「お客様…?」


店主が怪訝そうに首を傾げる。


俺は…向こうのほうも俺に気づいて信じられないと言った表情になっている……その檻の中の少女の名前を読んだ。


「シエル…?お前なのか…?」



〜あとがき〜


近況ノートにて三話先行で公開中です。

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