第10話


その日から俺は教会で治癒魔法係として働くことになった。


魔法に関してほとんど初心者も同然の俺に、毎日教会にやってくる戦闘職の人たちの治療がしっかり出来るのか不安だったが、すぐに杞憂だと分かった。


どうやら俺の回復魔法は相当威力が強いらしい。


皆、俺が魔法を使うと総じて驚いてくれる。


「冗談だろ…?怪我が一瞬で…?」


「おいおい、完全に治っちまったぞ…?」


「こんなの教会で受けられる治癒魔法のレベルじゃねーって…」


「あの、あなた一体何者なんですか…?」


皆口を揃えて似たようなことを言う。


俺自身は別に難しいことをやっている意識はないので、なんだか不思議な感覚である。


今の所俺の回復魔法には回数制限のようなものはないようである。


「素晴らしい魔法です。あなたのおかげで最近は食料が足りなくなることもほとんどなくなりました。スープの具がたくさん入ってるって子供達も喜んでいますよ」


「お役に立てているのなら何よりです」


マリアンヌの言った通り、俺がこの教会で治癒魔法係を務め出した途端に、教会を訪れる客が一気に3倍になった。


安い金でとんでもない治癒魔法をかけてくれる奴がいると巷では噂になっているらしい。


彼らは以前マリアンヌが治療費として取っていた金の2倍以上の額を払い、俺に治療をしてもらいにくる。


別段こっちから値上げを要求したわけではなく、むしろ「こんなにすごい治癒魔法をかけてもらったのにたったこれだけの金じゃ申し訳ない」と向こうから料金を多く払っていく

者が多いのだ。


おかげで収入も大幅に増えて、教会の財政問題も少しはマシになっているらしい。


マリアンヌは育ち盛りの孤児たちに毎日具入りのスープをお腹いっぱい食べさせることが出来て大変満足そうにしている。


俺としても懐がだんだんと温まってきて大変嬉しい。


「ここに大変腕のいい治癒魔法使いがいると聞いた…ぜひ治療をお願いしたい…」


教会には毎日俺の治癒魔法目当てで様々な人が訪れる。


例えば、それは大剣を背負った大柄で強面の冒険者。


「はいわかりました。今治療しますよ」


パァアアアアア…!


「うお…!?マジかよ…!?」


魔法を発動し、光が冒険者の傷口を包む。


太ももの部分全体に広がっている、まるで何かに噛まれたような痛々しい傷が、光が収まる頃にはすっかり元通りだ。


肉の間に埋まっていた肉食獣の牙のようなものも、吐き出されて地面に落ちた。


男は完全に治った太ももを信じられないと言った表情で撫でる。


「信じられねぇ……完全に治っちまいやがった…」


「怪我の具合はどうですか?痛くないですか?」


「ああ…この通りだ。問題ない」


ここにくるまで剣を杖にして立っていた男は、両足で問題なく立てることをアピールする。


「怪我が治ったようで本当に良かったです」


「本当に助かったぜ……まさか完全に治してもらえるとは思わなかった……傷を塞いで、痛みを止める程度の治療を想定していたんだがな…」


これもよく言われることだ。


俺の回復魔法の威力は、教会で働く治癒魔法使いにはそぐわないものらしい。


教会で治療をしてもらおうとする大半の人々が、怪我の完全治癒ではなく一時的な痛み止めや、これ以上血が流れないように傷口を塞いでもらうのが目的だそうだ。


これは、大怪我を一瞬で治療できるほどの治癒魔法使いなら独立しても十分やっていけるほどに需要があるのが原因なのだそうだ。


なぜそれほどの腕がありながら教会に留まっているのかと聞かれることも多くなった。


「ここに恩があるので。お金も折半ですし、俺はこれでいいんですよ」


そう聞かれた時にはこんな感じで答えるようにしている。


「もの好きな奴だな」


そう言うと珍しいものを見るような目と共に、大抵こんな返事が返ってくる。


しかしこれは俺の本心でもあった。


行き倒れかかっていた俺に助けの手を差し伸べてくれたマリアンヌに恩返しができるのは俺としても嬉しいし、それに子供達がお腹いっぱいご飯を食べられて嬉しそうにしているのは見ていて楽しい。


なので俺は、もう少しだけこの教会に留まるつもりでいるのだ。


「ありがとよ。これ、お礼だ」


「え…金貨…?」


大剣を担いだ冒険者の男が、俺に金貨を投げて寄越した。


この世界に来てそこそこに日数が経過し、いい加減俺にも貨幣価値がなんとなく理解できるようになっていた。


金貨は、たった一枚で1ヶ月は遊んで暮らせるほどの価値がある。


「こんなにいいんですか…?」


「ああ。あんたの回復魔法にはそれだけの価値がある。いや、正直金貨一枚でも少ないぐらいだと思うぞ。じゃーな」


「ありがとうございます。また怪我などされた時にはいつでも訪れてください」


「おうよ」


男は満足げに手を上げて去っていく。


俺は手の中の金貨をしげしげと眺める。


「マリアンヌさん、喜ぶだろうなぁ…」


これを彼女に見せれば、きっと喜ぶに違いな

い。


最近孤児たちのボロボロになった服を買い替えたいと言っていたから、そのお金に充ててもらおう。


俺はマリアンヌの喜ぶ顔が見たくてワクワクしながら、彼女に金貨を見せにいくのだった。



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