第104話
「ギルド長のエレノアだ。単刀直入にいう。Sランク昇格試験を受ける気はあるか」
「え…ギルド長さん…?」
その日。
早朝にギルドを訪れてクエストを受けようとすると、ギルド長を名乗る女性が出てきた。
俺はいつものようにクロエにクエスト受注の手続きをしてもらおうとしたのだが、クロエが少し待ってください、ギルドから大事な話がありますと言われ、なんだろうと思いながら待っているとギ
ルド長が出てきたと言った次第だった。
受付の奥の方から現れたギルド長は、俺を真正面から真剣に見つめ、開口一番に耳を疑うようなことを言った。
Sランク昇格試験を受ける気はあるか、と。
俺は思わず聞き返してしまった。
「え……Sランク昇格試験ですか?」
「ああ。そうだ」
エレノアさんが頷いた。
Sランク昇格試験。
それは冒険者の最高ランクであるSランクに到達するための試験のことだ。
これをクリアすれば選ばれたものにしか到達できない最高ランクの冒険者になることが出来る。
Sランクは冒険者界隈の中ではほとんど神の如く崇められている存在だ。
もしSランクに到達すれば、その存在は街中に知れ渡ることになるだろう。
冒険者に憧れる誰しもが夢見る最高ランクの冒険者に、自分がなれるかもしれない。
俺はだんだんとことの重大さを理解していった。
「俺に受ける資格があるんですか?Sランク昇格試験を」
間違いのないようにそう尋ねた。
エレノアさんは深く頷いた。
「ああ。君は十分にギルドからの信頼を得ている。これまでの功績を鑑みて、君にはSランクになる資格があると見た」
「そう、ですか…」
これまで毎日クエストを淡々とこなしてきた成果だろうか。
どうやら俺はいつの間にか、ギルドから信頼され、Sランクの冒険者足ると判断されるだけの実績を積み重ねていたらしい。
この街にやってきて冒険者ギルドへ登録してまだ一年も経っていない。
まさかこんなに早く最高ランクの冒険者試験を受けることになるなんて思っても見なかった。
「どうする?辞退もできるが」
「もちろん、受けます。やらせてください」
俺は即答した。
自信はある。
こういうところで変に謙遜して俺には実力が足りないかもしれません、などと言えば損をする事はこれまでの経験で知っていた。
こういう時はとにかく自信を全面に押し出すのだ。
最高ランクの冒険者になれば、冒険者としての稼ぎはさらに多くなるだろう。
Sランク昇格試験を受けない手はない。
もちろん不安もあるが、聖剣や加護の力、そしてこれまでの冒険で培ってきた経験があれば、俺は成し遂げられると思っていた。
「君ならそういうと思っていた。ではSランク昇格試験の内容を発表する」
「は、はい…」
今この場で発表されるのか。
俺はごくりと唾を飲む。
エレノアははっきりとした声で、昇格試験の内容を口にした。
「東にある石山のストーンドラゴンを討伐すること。それがSランク昇格試験の内容だ」
「ストーンドラゴンの討伐…」
モンスター最強格のドラゴンの名前が出た。
流石にSランク昇格試験だけあって手強そうだ。
ちなみに俺はこれまでに一度ダンジョンでダンジョンドラゴンというドラゴン種と戦ったことがある。
ダンジョンドラゴンは、ダンジョンの下層の最深部に潜むドラゴンで、とても迫力はあったが、聖剣の力を借りてソロで倒す事はできた。
地上でのドラゴンとの戦闘経験はないためストーンドラゴンがどの程度の強さなのかはわからないが、ドラゴンを倒した経験はあるため、尻込みする事はない。
「君には選択したある」
「はい」
エレノアがSランク昇格試験突破のいくつかの選択肢を示してくれる。
「まず、ストーンドラゴンをソロで討伐すること。もし完了すれば即座に君はSランクとみなされる。Sランク昇格試験はそれにてクリアということになる」
「はい」
「もう一つが、パーティーを組んでドラゴン討伐に挑む場合だ。この選択肢を選んだ場合、君のドラゴン討伐における貢献度にもよるが、複数回同じ難易度の試験を受けてもらうことになる」
「はい」
「要するにパーティーなら複数回にわたって試験を受けなければならないが、ソロなら一回でSランク昇格試験を突破出来るということだ。さあ、どちらにする?」
「ソロでお願いします」
「早いな」
またしても即答した俺にエレノアさんは少し驚いたようだった。
「本当にいいのか?ソロでの討伐には当然ながら危険が伴うぞ?大抵の冒険者がSランク昇格試験では同じような実力者とパーティーを組んできた。時間と手間はかかるがその方が安全性は高い」
「それはわかっています」
「なんだったらギルドでSランク冒険者パーティーに依頼をすることも出来るぞ。そのための費用はギルドで捻出しよう。君はギルドにとってみすみす死なせるには惜しい人材だからな。君と組めるSランク冒険者パーティーをこちらで探してやろうか」
「必要ないです。昇格試験はソロで受けます」
俺はエレノアさんにそういった。
もちろんこれは強がりではない。
Sランク昇格試験をソロで突破できる自信があるのも理由だが、一番は聖剣を召喚する瞬間を見られたくないというのがあった。
ストーンドラゴンの討伐には、おそらくまた聖剣の力を借りることになる。
もしパーティーを組んだ場合は、パーティーメンバーたちに聖剣召喚の瞬間を見られてしまうことになる。
イスガルド防衛戦争の後、兜の治癒術師が聖剣を召喚した、という噂は街中に広まっている。
正体を隠した兜の治癒術師と俺を結びつけるような証拠を、自ら広めるようなことはしたくなかった。
だから俺にとってSランク昇格試験は、たとえ危険をはらんでいようともソロで受けるのが都合が良かった。
「そうか…わかった。では気をつけていってこい」
「はい」
期間は2週間以内。
それまでに東の石山へと赴き、ストーンドラゴンの鱗を持ち帰るのがSランク昇格試験の達成条件となった。
エレノアさんが去っていく。
「だ、大丈夫なのですか…お一人でSランク昇格試験を受けるのは非常に危険なことですよ…?」
クロエが心配そうに俺を見てくる。
受付嬢として冒険者の安否を慮っているのだろう。
優しい子だと思う。
「大丈夫だ。必ずストーンドラゴンを倒してここに帰ってくる」
「…っ」
俺がそういうとクロエはなぜか少し頬を赤くするのだった。
〜あとがき〜
近況ノートにて3話先行で配信中です。
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