昔フラれたトラウマで女性恐怖症になったってのに、何故かお嬢様と幼馴染がかまってくる

@HEHEI

プロローグ.オレは生徒会には入りません



正臣まさおみくん、生徒会に入る意思は固まりましたか?」



 固まったも何も伏見正臣ふしみまさおみの気持ちは初めてこの話を持ちかけられた時から何一つ変わっていなかった。



 桜花学院おうかがくいん生徒会室。



 重厚な臙脂えんじ色のカーペットとカーテン。重厚感のある黒の机、そしてソファー。


 他の教室とは異彩を放つ雰囲気が、否が応でも正臣に緊張感を与えてくる。


 だが、言うべきことは言わなければならない。


 誤解を生まぬように、はっきりと。


 机に両端をついてこちらを見つめる同級生、早乙女美姫さおとめみきに。



「美姫、何度も言ってるけど、オレは生徒会に入るつもりはない」



「それは、何故ですか?」



「何故? だから何度も言ってるだろ!」



 美姫の座る机に詰め寄って机を叩く。



「オレは女性が苦手なんだよっ!」



 ニヤつく美姫に正臣は確信した。



(こいつ、オレの反応楽しんでやがる......)



「それは存じています。でもそれが何故生徒会に入る事を断る理由になるのでしょうか?」



「えっ!?」



 立ち上がった美姫が正臣の前にゆったりとやってくる。



「や、だから......」



「だから?」



「ぐっ......」



(い、言えない! 生徒会のメンバーが全員が美人で、目が合うだけで心臓があぶって気が気じゃないなんて)



「理由によっては考慮しますけど?」



 挑発的なエメラルドの双眸そうぼう。呼吸する度に揺れるウェーブのかかった浮世離れした金の髪。


 早乙女美姫は美女だ。それも極上の。


 彼女の仕草、一つ一つが女性恐怖症の正臣の心を揺さぶる。


 そんな正臣の気持ちなんてつゆも知らないのか、はたまた楽しんでいるのか、美姫がその精緻な顔を近づけてくる。



「どうしたんですか? 何も言わないんじゃ何もわからないんですけど? あっ......」



 不意に窓から柔らかな風が舞い込んだ。

 

 風に乗った美姫の金の髪が正臣の顔に付着する。


 瞬間、花のような甘い香りが鼻腔びこうを通って脳に届く。



「あがっ。あががが.........」



 糸が切れたみたいに正臣の身体がその場で崩れ落ちる。



「ごめんなさい。ちょっとやり過ぎちゃいましたかね?」



「こ、このやろぉ......」



「今日はこれで失礼します。でも私、諦めませんよ。今の生徒会には......いや、私にはあなたが必要なので。よく、考えておいて下さい」



「おい、待てこら......」



 身体が言うこと聞かない正臣は、ちろりと舌を出して生徒会室を後にする美姫を恨めしげに睨みつけることしか出来なかった。

 


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