5-2.海岸ボランティア




「どう伏見くん、これなら大丈夫そうでしよ?」



 九条院家の別荘は、庶民の正臣の想像を遥かに超えていた。


 巨大なエントランスに、オーシャンビューを兼ね揃えた馬鹿でかいリビング。何部屋あるのかわからない部屋の数。


 確かにこれなら女子が三人いようとも、正臣のパーソナルスペースは軽々作れそうだ。



「伏見くんが女性恐怖症な事は私も知ってるからさ、そんな変な事しないよ?」



「どの口が抜かしてますか?」



「信用ないなぁ」



「日頃の行いを胸に手を当てて思い返してみて下さい」


 

 どの胸かなー、とふざける結衣をたしなめるように美姫がわざとだとわかる咳払いをした。

 


「結衣さん、そろそろいい時間ですので、ボランティア会場に向かいませんか?」



 美姫に言われて時計に視線を送ると結構いい時間だ。確かにそろそろ会場に向かった方が良さそうだ。



「そうね。伏見くんの悩みも解消できた事だし、サクッとボランティアして後は夏をエンジョイしましょっか!」

 


 一人で手を挙げて盛り上がる結衣に正臣の口から大きめのため息が漏れるのだった。





 ボランティアは前評判通りの重労働だった。


 時間でいえば二時間ほどだが、大きめの人口漂流物の除去であったり、砂浜に潜り込んだマイクロプラスチックの除去など、改めてゴミによる地球汚染の深刻さを感じ、少しだけ気が滅入る。


 そろそろ終わりの雰囲気が漂う会場で、結衣と美姫が地元ボランティアの方と話し込んでいるのを見かけた正臣は一人波打ち際を歩いて、最後のラストスパートと言わんばかりにゴミを拾う。



「ねぇ、もうゴミ拾ってるの正臣くらいだよ」



 話しかけてきた凛子が正臣の持つゴミ袋に潰れた何かの缶を入れてくる。



「みんなもう、談笑して終わりの合図待ってるよ」



「まあ、せっかくだしな。もうちょっと拾うよ」



 というのは建前で、本当はあの輪の中に入って見ず知らずの人と話すくらいなら、こうやってギリギリまでゴミを拾っていた方が気が楽というのが本音だ。



「相変わらず真面目だね、正臣は。じゃああたしも付き合おうかな」



 おそらく正臣と同じ理由でゴミを最後まで拾っていたんだろう凛子から視線を逸らして足元に視線を向ける。


 波打ち際。たまに予想以上に強く打ち寄せる波が足を濡らして心地いい。



「ねぇ、正臣はなんでこのボランティアに参加したわけ?」

 


「なんでって......誘われたから?」



「早乙女さんに?」



「美姫は、関係ない」



「ふーん。本当かなぁ?」



「なんだよ。ヤケに突っかかるな」



「別にー」



 そういう割には白波しらなみを蹴り上げてムスッとしている。


 昔から凛子は気持ちがすぐに顔に出る。


 高校生に......大人になってもそういう所は変わらないんだなと思うと、口元が緩んでしまう。



「......なによ?」



「なんでもないよ。ちょっと休むか? 飲み物くらい奢るけど」

 


 頷いた凛子と共に少し先に見えるにぎわう海の家の横にある自販機へ向かった。




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