6-1.過去の真実と凛子の変わらぬ想い




 凛子はコーラ、正臣は缶コーヒー、それぞれを持って休憩所にある長椅子に腰掛ける。



「正臣さ、生徒会に誘われてるんだって?」



「ん? ああ、まあな。誰に聞いた?」



「結衣さん。てか、クラスでは普通に有名だけどね」



 早乙女さんグイグイ正臣のこと勧誘してんじゃん、と凛子がジト目を向けるので肩を竦めて缶コーヒーを一口煽あおる。



「生徒会、入んないの?」



「入らないよ。ガラじゃないし」



「ガラじゃないって、中学の時やってたじゃん」


 じゅくりと胸の傷が疼く。


(なんでお前が、そんな事言うんだよ)


 沸々と湧き上がる戸惑いと怒りの感情。


 決して消えない傷。気づかないように蓋をして封印した記憶を、傷つけられた本人に掘り起こされているような感覚に、戸惑いと怒りの感情が沸々と湧き上がる。


 横を向いて凛子と目が合う。



「そんな顔しないでよ」


 

 凛子の乾いた笑み。


 怒りの感情を抑えきれない。きっと今、凛子を睨んでいる。


 だが凛子は言葉を止めない。



「それも一緒にさ」



 盛り上がる文化祭。高鳴る心音。フラれた時の凛子の、表情......


 思い出したくもない、嫌な記憶がジワリと脳裏に滲み出す。



「......ここは中学じゃない。桜花だぞ? オレみたいな庶民には務まらないよ」



「ふーん? そういうもんなの?」



「そういうもんだ。そろそろ行くぞ。もう終わってもいい頃だ」



「待ってよ」



 これ以上話したくなくて椅子から立って歩き出した正臣の手を、凛子に捕まれ止められる。



「......あたしね、ちょっとだけ嬉しいんだ。正臣が生徒会に入んないの」



 もう、やめてくれ。頼むからこれ以上何も言わないでくれ。


 気持ちの整理がつかなくなる。考えたくなくて、無理やり押し込めている心にかかったモヤが溢れてしまう。


 なんで、フッたんだよ。なんでお前はまた現れて、話しかけてくるんだ。


 渦巻くドス黒い感情を制御出来なくなった正臣は握られた手を振り解く。



「......ふざけんなよ......」



「正臣?」



「凛子、お前は一体なんなんだ」



 ずっと耐えていた言ってはいけないと押し込めていた黒い感情が、せきを切ったように口から溢れ出す。



「なんでオレに関わるんだよ! なんで転校してきた!? オレが桜花にいる事知ってたろ!? オレは......お前と......みんなと離れたくて桜花に来たのに!」



 何も言わず、無表情で凛子が正臣を見つめている。


 

「生徒会に入らない事が嬉しい? ふざけんなよ! オレはお前と過ごしたあの時の事を思い出したくないから生徒会に入りたくないのもあるんだよ!」



「あの日の文化祭のこと......やっぱりあたしのこと恨んでる?」



「恨んではない」



 凛子のことが好きで告白したのは事実だ。それでみんなから乱暴にイジられて不登校になって、女性恐怖症になったことも全て自分の責任だと思ってる。だけど。



「なんでまたオレの前に現れた?」



 それがどうしても理解できない。


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