18-1.半分こ





「今日からあなたの名前はデメちゃんよ」



 鼻歌混じりに上機嫌で隣を歩く美姫の手には例の黒い出目金の入った金魚袋がぶら下げられている。


 金魚袋を見つめて満足そうに破顔はがんした美姫が正臣にどうだ、と言わんばかりの挑発的な視線を向けてきたので肩をすくめる。



「はいはい、すごいすごい」




「......なんかバカにされてる気がします」



 ジト目を向ける美姫から、金魚をすくった時の事を思い出して目を泳がせる。


 破れるポイ。逃げる出目金。


 黒い出目金と美姫が戦い初めて三十分ほど経過し、正臣もおじさんも見守り疲れ始めた頃、遂に出目金が美姫の執念にくっしておわんの中におさまった。


 瞬間、感極まった美姫が正臣の胸に飛び込んで来たのだ。



(はあ、まだドキドキしてる......)



 こっちはこんな気持ちでいるのに、ケロッとしている美姫を見るのは面白くない。


 美姫のやつ、気にしていないんだろうか?


 だが事実、命名デメちゃんをすくえたのはすごいと思うので、素直に頭を下げておく。



「あなたの執念には感服しました」



「......なんかニュアンス引っかかりますが、ま、私にかかかればこんなもんです」



「どんなもんだよ......」



 こっちの気持ちも知らないで、とは言えない正臣は美姫から視線を逸らす。



「正臣くん」



「ん?」



「この子、大切にしますね」



 再び振り向いた先、大切そう金魚袋を両手で持った美姫が正臣を見つめていた。


 揺れる宝石みたいなエメラルドグリーンの瞳に正臣が映り込んでいる。



「.........あそ、そうしてあげてくれ」



 調子が、狂う。


 いつもとは違う美姫の姿がそうさせるのか、抱きつかれた直後だからなのかわからないが、今日の自分は何かおかしい。


 美姫と目が合うだけですぐに高鳴ってしまう心臓。


 だけどいつもみたいに苦しい感じはしない。

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