17-2.だって、正臣くんは私のヒーローなんですから
「あら、早かったわね、二人とも」
屋敷に入ってすぐ、出迎えた意外な人に美姫と
「会長!」
優雅な所作でティーカップをソーサーに置いた結衣が手を振ってくる。
「結衣さん! あの後大丈夫でしたか!? 変なことされていませんか?」
「大丈夫よ美姫ちゃん。あなた達が帰ってくるまでの間、ここにいるように言われてただけだから」
「そんなの、私の身代わりみたいなものじゃないですか......」
拳を作って震える美姫から怒りが伝わってくる。
「戻られましたか、お嬢様」
部屋に入ってきた
「紅緒......このっ、早乙女の
「黙りなさい美姫。それは私の指示です」
「お母様......」
続いて入って来た冷たく低い
「あなたの足取りを掴むには彼女が必要だったからそうさせてもらったまでです」
長いため息を落とした和葉の冷たい視線が正臣を捉える。
「それで、その男との別れ話は済ませたのですか?」
「いいえ。その逆です」
間を与えずピシャリと答えた美姫の声に、和葉の整った眉がピクリと動く。
「私、正臣くんと一緒になる事にしました」
「......美姫、あなたそれでも早乙女財閥の次期総帥ですか? そんな
「惚けた? それはお母様では?」
「なんですって?」
「彼はそのあなたが次期総帥に育て上げた娘が認めた人よ。生まれや育ちなどと言う、つまらない物差しでしか判断できない人に惚けたなどと言われる筋合いはありません」
「生意気な......」
「ね。正臣くん」
睨む和葉と微笑む美姫。異なる二つの視線に困惑してしまう。
だが、正臣も覚悟を決めて和葉に対峙する。
「お母さん、美姫さんと一緒になるということは、早乙女財閥の為に生きることと同じ意味だと理解しています」
昨日、和葉と対峙していた時にはわからなかったこと。
それは美姫の隣に立つと言うことは、早乙女財閥も支えるということだ。
和葉に認められなければ、和葉から逃げてしまえばいい。
そう美姫に問うたが、彼女は首を横に振った。
美姫の中でも早乙女財閥は大切な存在なのだ。当然和葉も。ならばそこで認めてもらわなければならない。
正臣が、早乙女財閥に
「だから、僕を夏の間、早乙女財閥で働かせて下さい。雑務でも何でもいい。必ずお母さん......いや、総帥の眼鏡に
「もしダメなら?」
「......ダメなら即刻彼女の前からいなくなります」
覚悟を、伝えた。
たかが一晩考えた程度の浅はかな考えと言われてしまうかもしれない。
和葉と視線をぶつけ合っていると、不意に背後から拍手が鳴る。
「言うねぇ伏見くん。お姉さん感動しちゃった」
「会長......」
「ふふっ。和葉さん、ここまで言われたら、早乙女財閥総帥としてこの提案、無下には出来ないんじゃないですか?」
黙る和葉に真剣な眼差しを結衣が向ける。
「青臭いと言った庶民の高校生が経験したことのない、仕事という土俵に上がって勝負すると
結衣の言葉に顔を歪めた和葉が美姫に視線を送る。
「......美姫、あなた本当にこの男の事を愛しているの?」
「はい。愛してます」
しばらく見つめ合ったまま固まる二人。ため息を落とした和葉が正臣に視線を戻す。
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