17-3.だって、正臣くんは私のヒーローなんですから
「.........先程の言葉、忘れないで下さい。貴方、夏休みの予定は?」
「ありません」
格好つけてきっぱり断言したのだが、灰色の青春をさらけ出したみたいで恥ずかしい。
現に隣で美姫と結衣が吹き出したので、睨みを利かせる。
「なら残りの夏休み、早乙女財閥で働いてみなさい。もしそれで、そぐわないと判断したら即刻美姫の前から消えて頂きます」
「総帥!? 冷静になられて下さい。こんな男にチャンスを与える必要なんてありません!」
「黙りなさい、紅緒」
これは決定事項です、と告げた和葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた紅緒が不満を
「伏見正臣さん」
「は、はいっ!」
「勘違いしないで下さい。私は貴方のことを認めたつもりはありません。そこまで言うなら見定めようと思ったまでです。明日から財閥のトップとして、貴方が美姫の婚約者として相応しいか見極めますので、覚悟しておいてください。行きますよ、紅緒」
紅緒を連れ立って出ていく和葉に頭を下げる。
しばらくの沈黙。破ったのは腕に抱きついてきた美姫だ。
「やりましたね! 正臣くん!」
「あ、ああ......」
何と言うか、喜んでいいのかよくわからなくて微妙な返事になってしまう。
チャンスはもらえたが、認められなければ即刻美姫の前から姿を消さなければならない。
崖っぷちには変わりない。
「いやーしっかし、よく早乙女財閥の総帥にあんな啖呵が切れたもんね」
上手くいかなかったら終わりよ、と呆れた表情を浮かべる結衣に肩を竦める。
「ああでも言わなきゃ、一生認めてもらえなさそうなので。正直、不安ですけどね」
働くどころか、バイトの経験すらないのに、一流企業で総帥である和葉に認められる自信があるほど自分に
ため息を吐いた正臣の唇に美姫の人差し指が添えられる。
「そんな顔しないで下さい」
「美姫......」
「大丈夫です」
微笑む美姫。そこに不安の色は一点も見当たらない。
「だって、正臣くんは私のヒーローなんですから。きっと全部上手く行きます」
「なんだそりゃ」
何の根拠もない美姫の笑顔が身体を
彼女の頭に手を置いて、そっと髪を指で
赤らんだ頬、瑞々しい唇に吸い寄せられそうになった所で、わざとらしい咳払いが聞こえた。
「いい雰囲気の所悪いんだけど、私がいること忘れなーい?」
「会長......わ、忘れてないですよ。な、なあ、美姫?」
「は、はいっ」
ジト目を向ける結衣から逃げるように二人して目を逸らすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます