8-3.ダンスパーティー





 心の中で結衣のメイクアップに感謝しつつ、この状況を収めるために男子生徒と対峙する。


「今日は紳士淑女のためのダンスパーティ。嫌がる女性の気持ちも理解出来ないやつは参加するべきではないと思うが?」



「くっ......」


 

 言っておいて、我ながら恥ずかしい台詞せりふだと思ったが、結衣からの受け売りの言葉と一緒に睨みをかすと、驚くことに男子生徒がわかりやすくたじろいだ。


 そんな正臣の声に賛同を示すように事態を見守っていた生徒達も、男子生徒に冷たい視線を向けてくれ、たまれなくなったのか、彼は正臣にきびすを返して雑踏ざっとうまぎれていった。


 周りから起こった控えめな拍手に顔が熱くなる感覚を覚えていると、袖をくいくいと引っ張る、か弱い力を感じた。


 さて、どうしたもんか。


 なんというか、振り返るのが非常に恥ずかしい。



「......正臣くん、ですよね?」



 やっぱり美姫にはバレていた。


 くいくい引っ張り続ける美姫に観念し、仕方なく振り返った正臣は思わず小首を傾げる。



「どうしたんだ?」



「......え?」



「顔、真っ赤だぞ?」



「......うぅっ......」



 声にならない声を出した美姫がうつむく。



「耳まで真っ赤だけど大丈夫か?」



 体調悪いのかと尋ねて俯く美姫の顔を覗き込もうとしたのだが、後ろを向かれてしまいそれは叶わない。



「......も、もう、勘弁してください......これ以上されたら私......」



「私?」



「......正臣くんのばか」



「なんでオレ叱られてんの?」



 いまいち納得出来ないまま美姫の背中を見つめていると、ふと迎賓館に入る前に言われた結衣の言葉を思い出す。


『がんばっておめかしした姿を褒められて嬉しくない女の子はいないから』


 そういえばさっきの男のせいで美姫の身なりに1ミリも触れていない事を思い出した所で美姫が再び向き直る。


 普段と違う美姫の姿は、お世辞抜きに綺麗だと思った。



「あ、その......なんだ」



「こ、今度はなんですか?」



「なんていうかその......言ってなかったけど、その格好......綺麗、だぞ? って、おい美姫!?」



 何故か両手で顔を覆ってその場にしゃがみ込んでしまった美姫に、正臣は慌てて駆け寄るのだった。


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