8-2.ダンスパーティー




 ダンスの踊れない正臣にとって、ダンスパーティーは当然退屈だった。


 それに今日はやけに視線を感じるので、人気ひとけのない柱に隠れるようにもたれ掛かって、人目を気にしつつビュッフェコーナーから頂戴した食事を口にしている。



(会長には悪いけど、飯食ったら帰ろう)



 視線を感じるのは恐らく結衣と手を繋いで会場入りしたせいだろう。


 男子よりも女子と目が合う機会が多いのが気になるが、それ以外検討がつかないので、自分の中で勝手に理由づけして、自分で発注した軽食を口にする。


 軽食はそこそこの味で、テーブルの辺りで口にしているセレブな生徒達の表情も満足そうで安心した。


 そんな生徒達を眺める正臣の視界にダンスホールの真ん中辺りで一際目立つ、白のドレス姿で黒髪をなびかせる凛子をとらえた。



(......あいつも参加してたのか)



 凛子の周りを取り囲むように複数の男子生徒達が群れをなしている。どうやらダンスを申し込んでいるようだ。


 言い寄られている凛子は、その表情から満更でもなさそうだ。



(あいつ、見てくれはいいからなぁ)



 しかも今日は綺麗なドレスと装飾品で着飾っている。並の男なら彼女を放っては置かないだろう。



「しつこいですね。さっきから何度もお断りしていると思いますが?」



 不意に、近くで聞き慣れた声がした。



「頼むよ早乙女さん! 一曲踊るくらいいいだろう!?」



 焦るような男の声のした方に視線を向けると、例の真っ赤なドレスを着た美姫が一人の男子生徒に言い寄られているようだった。



「なんでそんなに拒むのさ! 他の男子にもそうみたいだし、だったらなんでダンスパーティーに参加してるんだい!?」



「それは......」



 断られ過ぎて逆上したのか、言い寄る男子生徒の口調がどんどん厳しいものになり、遂には美姫の手を強引に掴んでしまう。



「いたっ......」



 苦痛にゆがむ、美姫の表情。


 瞬間、正臣の身体が無意識に動いた。


 二人の間に身体を滑り込ませ、美姫を掴む男子生徒の手を引き剥がす。



「な、なんだよお前!」



「やめろよ。嫌がってるだろ」



「3点...お前、さっき会長をエスコートしてホール入ってきた奴だな......」



 正臣に敵意をき出しにする男子生徒にため息が出る。


 男子達から感じる視線の原因はやはり会長のせいだったようだ。


 しかし彼の発言から察するに、どうやら今の正臣は、正臣として認識されていないようだ。


 これなら美姫にも正体をバラす事なくここから立ち去れるかもしれない。


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