8-1.ダンスパーティー



 桜花学院はとてつもなく広い。


 幼稚舎ようちしゃから大学までの学部を一つの敷地内に収めているだけでも広いのだが、それらの生徒が様々な活動を行うことに困らないよう、各種施設も充実している。


 その施設の一つがこの迎賓館げいひんかんだ。



(相変わらず豪勢だなここは......)



 入学式や卒業式といった式典で使われることの多いこの施設は、桜花学院の中でも特にきらびやかな場所だ。


 そんなただでさえ豪勢な迎賓館に、今は華やかな衣装に身を包んだ高等部メンバー達が花をえており、初参加の正臣を無駄に緊張させてくる。


 とは言っても、今の正臣が周りから変に浮いている訳ではない。


 結衣によるセットアップと、手配してくれた高そうなスーツのおかげで周りの雰囲気に馴染むことが出来ている、はずだ。


 さっきから妙に視線を感じるが、今さら足掻あがいたところで何も変えられないし、逃げたらそれこそ明日以降の結衣が怖いので、腹をくくって視線は勘違いだと決め込むしかない。



(しかし会長遅いな......)



 結衣とは迎賓館の入り口前で待ち合わせと言われているのだが、なかなか現れない。


 ギリギリまで正臣をセットアップしてくれていたので、準備が遅れているのかもしれない。


 挨拶あるのに大丈夫かな。なんて考えていると、とある一角から男子達のどよめきが聞こえた。



(美姫だ......)



 目を見張る真っ赤なドレス。日が落ちて薄暗くなっているというのに相変わらずまばゆい光を放つ金の髪。



「早乙女さん! 今日のダンスパーティー、僕と踊ってくれませんか!?」



「いいや、まずはオレとだ! 早乙女さんお願いします!」



「結構です」



 群がる男子を一蹴するめた声と無機質な表情。


 取り付く島がないとはまさにこの事だなと、撃沈された男子達のしかばねに流石の正臣も同情する。



「あら。美姫ちゃん相変わらずね」



「あ、会長」



「お待たせ伏見くん。私の格好、どうかしら?」



 現れた結衣は青のドレスに身を包んでいた。


 所々にあしらわれた装飾品は華美かび過ぎず、結衣の美貌を十分に際立たせている。



「まあ、その......素敵です」



「ありがとう。伏見くんのそうやって素直に人を褒められる所、素敵だと思うな。がんばっておめかしした姿を褒められて嬉しくない女の子はいないからね」



「やめて下さい......」



「さ、時間もないし中に入りましょうか。エスコートお願いできるかしら?」



「出来れば断りたいのですが、可能ですか?」



「もうっ! この後におよんで情けない!」



 ぷりぷりと例の如くむくれた結衣が正臣の手を掴んで迎賓館へ歩み出す。



「......あの子にも素直に接してあげてね?」



「え?」



「さー今日は紳士淑女のためのダンスパーティー。楽しまなきゃ損だからね!」



 あの子が誰をさしているのか尋ねようとした正臣だったが、手を引いて先を歩く結衣に尋ねることは出来なかった。




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