4-2.あたしにとってもここ、地元なんだけど




 突然舌打ちして何故か不機嫌そうに腕を組んだ凛子に戸惑っていると、美姫に脇腹を小突かれる。


 どうやらこちらも不機嫌なようで、頬がハムスターみたいにふくらんでいる。



「正臣くん、さっきから私の事無視してませんか?」



「してないって」



 なんでそうなる、と呟いてがっくりと項垂うなだれると、隣の美姫の影がスッと前に動いたのが見えた。



「白壁さんと正臣くんって、本当にご近所さん同士なんですね」



 温度を感じない冷たい声。それを聞いた凛子が鼻で笑う。



「そうなのー。いつから一緒かなー? 保育園? それよりも前からかしら? わかんないや。ねー正臣、あたしらって、いつから付き合ってたっけー?」



「つ、つつつ、付き合う!?」



 もう、やめて欲しかった。


 昼下がりのだる様な炎天下の真っ只中だと言うのに、さっきから正臣の背筋に悪寒が走りっぱなしだ。


 二人とも顔が笑ってない。


 正しく言えば笑顔なんだが、内心で笑ってないのが第三者の正臣でもはっきりわかる。



「そういえば正臣くん! さっき一緒に約束した例の件、まだ詳細教えてなかったですね!」



 ヤケに大きな声で話した美姫がスマホを取り出して手早い操作で何かすると、正臣にそれを差し出してくる。


 そこには先ほど話してくれたボランティアの詳細の書かれた画像データが表示されていた。



「ありがと。別に今教えてくれなくてもいいんだけど......」



 と言って、そういえば美姫の連絡先を知らない事にふと気つく。


 まあ、結衣経由でボランティアの詳細貰えばいいかと一人結論づけて、画面を適当に流し見ていると、美姫がスマホ画面を覗き込もうと顔を近づけてきたので、自然と距離が近くなる。



「お、おい......ちょっと近いんだけど」



「まあまあ、いいじゃないですか減るもんじゃないし。そんなことより海、楽しみですね」



 美姫の声に凛子の整った眉がピクリと動く。



「なに、あなた達海に行くの?」



「ええまあ、夏休みですし」



 答えた美姫の声のトーンは明るく、表情はどことなく嬉しそうで自慢げだ。



「ふーん」



 対して凛子はつまらなさそうに答えると、目を細める。



「それって生徒会の海岸清掃ボランティアのことじゃないよね?」



「えっ!? な、なんでそれを......」



 ズバリ言い当てられて明らかに動揺する美姫に、どこか勝ち誇ったような表情を浮かべる凛子。



「なぁんだ、やっぱそれか。だったらごめんね早乙女さん。あたしもそれ、会長から誘われてるんだわ」



「結衣さんが? き、聞いてないです......」



 わかりやすくたじろぐ美姫に、凛子が今度はニンマリと意地の悪そうな表情を作る。



「と言う事で海、楽しみね早乙女さん。また会いましょう。じゃあね」



 ひらりと手を振って行ってしまった凛子の背中が見えなくなるまで二人で呆然と眺める。



「く、悔しい......」



 隣からぽそりと聞こえた震える声に嫌な予感しかしない。


 エメラルドグリーンの瞳をうるませてこぶしを握り込む美姫にため息が漏れてしまう。



「正臣くん、この後暇ですよね?」



「え、まあ......」



「ならちょっと付き合ってくださいっ」



 有無は言わせぬという、美姫の気迫のこもった表情に正臣は諦めたように頷き、ずんずん進んでいく美姫についていく。


 その後訪れた駅前の喫茶店で、美姫に付き合って胸焼けするほどケーキを食べた。




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