4-1.あたしにとってもここ、地元なんだけど
「今日はお世話になりました。突然の訪問で大変ご迷惑をお掛けしました」
「おう」
家を出てすぐ頭を下げた美姫に適当に正臣が相槌を打つと、クスリと笑われてしまった。
「否定しないんですね」
「まあ、事実お世話したからな」
「確かにそうかもしれませんね。......ねえ、正臣くん、いつかまた来てもいいですか?」
「別にいいけど」
「ありがとうございます」
ふわりと微笑んだ美姫が目を細める。
正直、その笑みの理由を正臣は理解できなかった。
嬉しいのだろうか。
お嬢様の美姫が庶民の家に来れることの何が嬉しいのかわからない正臣は小首を傾げて美姫の隣に移動する。
「で、今日はここまでどうやってきたんだ?」
「電車できました」
「あそ。じゃあ送ってく」
「......はい」
「え。何してんの?」
よく通る凛とした声が耳に届く。
門扉の向こう側の道路にいたのは、腰の辺りまで伸ばしたしなやかな黒髪を揺らす凛子だ。
黒のキャップをかぶり、白のTシャツにデニムのショートパンツと相変わらず肌面積が多い格好で、目のやり場に困ってしまう。
「げ。凛子」
「......げ、とはなによ。失礼ね。あたしにとってもここ、地元なんだけど」
ジト目を向けた凛子は正臣から美姫に視線を移すと、わざとらしい大きめのため息をついた。
「え、なに? やっぱ二人とも付き合ってるわけ?」
「はい。そうなんです」
「......ざけんなこら」
ニッコリ微笑んで、息するように嘘を
「今日は正臣くんに、お家に招待していただきまして」
「へぇ。仲のよろしいことで」
別に招待してないぞと訂正しようとしたのだが、睨み合う二人の異様な雰囲気に
そんな重たい空気に耐え切れなくなった正臣は凛子に向けて口を開く。
「で、お前はこんなとこで何してんだ?」
「こんなとこって、あたしん家、そこなんだけど」
不快そうな表情を崩さず、凛子は振り向かずに背後にある家を親指でさす。
凛子と正臣の家は近いと言うか、本当にご近所だ。
「なんだ里帰りか?」
「......まあ、そんなとこ」
呟く凛子の顔に何故か影が差した気がして、首を傾げる。
「どうした。なにかあったのか?」
「......ほんと、正臣のそういうどうでもいい所で敏感になる所、嫌いだわ」
「は?」
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