14-1.オレのこと、パシリと勘違いしてませんか?




 七月上旬。


 一学期の定期考査を迎えた桜花学院の空気は全体的にピリついていた。


 誉高ほまれだかき桜花学院は進学校でもあるので、テストの難易度はそれなりに高い。


 テスト勉強による疲れのせいか、はたまた結果による心労のせいか、学生達の表情は一様に曇りがちだったが、定期考査最後のテストの終わりを告げる鐘の音がそんな鬱屈うっくつとした空気を全て吹き飛ばした。



「正臣くん、今回の考査の手応えはいかがですか?」



 テスト前まで教室を支配していたピリついた空気は嘘のようにかき消え、夏休みの話題で盛り上がるクラスメイト。


 そんな彼らを尻目にいつもどうりの声のトーンで、隣の席の住民が正臣に尋ねてくる。



「普通かな。正直、今回は簡単過ぎた」



「ふふっ。他の人に聞かれたら100パーセント睨まれますよ?」



 同意見ですけどね、と血色の良さそうな唇に手を当てた美姫にクスリと笑われてしまった。



「ケアレスミスしてないといいですけどね?」



「自慢じゃないが、そう言ったたぐいのものは生まれてこの方、したことがなくてな」



「その発言も絶対周りに睨まれますねぇ」



「お前もだろ?」



「まあ、そうなんですけど。......そろそろ観念して、生徒会に入ったらどうですか?」



 既に片足突っ込んでいるようなものなんですから、と意地の悪そうな表情を作った美姫が、右手で作った輪っかを口元にえてささやく。


 なので正臣は出来うる最大限のジブ顔を作り上げて、渾身の無言の否定を美姫に突きつける。



「すごい顔。本当に強情な人ですねぇ」



「どっちがだ」



「しかし、夏休みですか......」



 浮き足立つ教室に視線を送る美姫は何故か悲しげだ。



「どうした? 楽しみじゃないのか」



「別に特別予定があるわけではないですし、その......学校に来れなくなるのはちょっと悲しいというか......」



 目尻を下げてほんのりとしょぼくれた美姫に正臣が首を傾けると、すぐにムッとした表情に変化する。



「......正臣くんのばか」



「......この会話の流れでどこにオレがののられる要因があったのか教えて欲しいんだけど」



 期末考査よりも明らかに難解なんだが、とジト目を向けるが美姫に「知りませんっ」とそっぽを向かれてしまった。


 さっきから態度と表情をコロコロ変える美姫に疲れてしまった正臣は、叱られた原因を探ることを諦め、とりあえず頭を下げておいた。





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