8-1.早乙女財閥
「これは一体どう言うことですか?」
感情のない、トゲトゲしい冷やかな美姫の声。
翌日の早朝。結衣の別荘の入り口に現れた、おびただしい数の黒塗りの外車とスーツ姿の大人達。
それらを無機質な表情で美姫が睨んでいると、一人の黒いスーツ姿の女性が前に出てきた。
「お嬢様、お迎えに上がりました」
「
年齢は二十代中盤ぐらいだろうか。
小柄ながら引き締まった身体、向けられる鋭い目付きは、近寄り難い印象を正臣に与えた。
そして何より目を引くのは彼女の髪だ。
紅緒と言う名前の通りの、真っ赤な髪は肩の上辺りで切り揃えられている。
「あなたが伏見正臣ですか」
「え、あ、はい。そうです。初めまして......」
不意に話しかけられ、戸惑うように軽く会釈したのだが、紅緒の勘に触ったのか、わかりやすく舌打ちされてしまった。
「情けない。私がついていながら、あなたのような害虫をお嬢様に
付き人失格です、不快感を一切隠さない敵意剥き出しの表情で正臣を睨んではっきりと言ってくる。
「紅緒っ! 私の学友になんたる無礼を! 訂正して謝罪なさい!」
反応したのは言われた本人の正臣ではなく美姫だった。
怒気のこもった美姫の声。
だが、声を向けられた当の本人である紅緒は
「ご学友、とおっしゃられましたか?」
落ち着き払った紅緒の問いかけに、美姫の整った眉が微かに動く。
「本当に、ただの、ご学友でしょうか?」
「......何がいいたいの?」
「ただご学友なら、我々も干渉する気はございません。しかし我々は、伏見正臣をお嬢様の前から排除すると決断致しました。どういう意味か、お分かりですね?」
話す紅緒を唇を噛み締めて美姫が睨む。
「......分かりかねますし、従うつもりはありません。とにかく、まずは彼に謝罪して下さい」
「お嬢様の命令でもそれは出来かねます」
「なっ......」
「彼に対して述べたことは事実です。それに我々は今、
「お母様......」
頷く紅緒を見つめてポツリと言葉を落とした美姫の表情から怒りの色が一気に引いて、変わりに顔が強張ったのがわかった。
紅緒が周りに目で合図を送ると、
「お嬢様を連れて行きなさい」
すっかり大人しくなってしまった美姫は
「美姫......」
車に乗り込む前、美姫と目が合う。
「大丈夫です。正臣くん、私の関係者が大変な失礼を......本当にごめんなさい」
「や、そんなこと別にどうでもいいっていうか......」
また、会えるんだよな。
そう聞きたいのに唇を動かせなかった。
それを口にしてしまったら、とう二度と会えなくなるような、そんな気がして。
美姫に向けて無意識に伸ばしていた手を情けなくだらりと下げる。
「......じゃあね、正臣くん」
笑顔を向ける美姫。
だけどそれがいつもと違うことくらいわかる。
もう会えない。
その笑顔にそう言われてる気がして、正臣の気持ちに不安が覆い被さる。
美姫が車に乗り込む姿をただ見つめる事しかできない正臣の肩を紅緒に叩かれる。
「伏見正臣、こうなった原因は全てあなたにあります」
「は?」
「お嬢様は将来早乙女財閥を背負われる方。あなたのような庶民ごとぎが関わってはいけない存在ないのです」
「なんだよそれ......」
「はっきり伝えておきましょう。伏見正臣、あなたは二度とお嬢様に会えません。いや、私達が会わせません。それでは」
睨みと共に吐き捨てた紅緒が先程美姫が乗った車に乗り込むと、正臣達を置いて九条院家の別荘から走り去っていった。
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