7-3.恋を、しているんだと思う
「急にそんな辛そうな顔されたら心配するに決まってるじゃないですかぁ......」
なんて、顔してんだよ。
「話したくないなら話さなくていいです。でも、辛いなら辛いって言って下さい。せめて側に居させて下さい。放っておける訳、ないじゃないですか......」
胸が苦しい。鼻の奥がツンと痛んで目頭が熱くなって上を向く。
「......ごめん」
砂浜についた手の上に美姫の手が
胸の鼓動が早くなった気がしたが、嫌な感じはしない。
「私のこと、遠ざけようとした罰です。女性恐怖症でドキドキしちゃってもしばらく離してあげませんから」
「......うん」
美姫の体温を感じて心音が少し強くなるが苦しさはない。
心地いいような、満たされるような初めて感じる不思議な感情に少し戸惑いながら素直に頷くと、美姫が目を細めた。
「それはそれでなんだか悔しいですね。まあいいですけど」
しばらく夏の夜空を舞う光の粒子に視線を向ける。
「綺麗ですね」
「ああ」
「実は正臣くんが散歩に出掛けたあと、結衣さんが今日打ち上げ花火が上がるって話してくれて、それで正臣くんを探しに来たんです」
「そうだったのか」
「はい。どうしても正臣くんと一緒に花火が見たくて」
重ねた掌を握る力が強くなって正臣は横を向く。
「どうした?」
「あの日一緒に行ったお祭りのプレ、ちょっとだけ悔いがあったんです」
「なんだよ?」
「さあ? 鈍感な正臣くんには内緒です」
「なんだよそれ」
夜空に咲き乱れる大輪の華に負けない笑顔にいつの間にかいつもどおり笑っている自分がいる事に気づく。
本当に、美姫に敵わない。
話す前、あんなに心が
美姫はいつも正臣の心のささくれを簡単に取り除いてしまう。
初めて、女性恐怖症になった時のことを話した時もそうだった。
花火に照らされてよく見える彼女の笑顔が胸の高鳴りを心地よく加速させる。
美姫が笑ってくれると嬉しいし、悲しんでいると辛くなる。
この気持ちの正体を、正臣は知っている。
恋を、しているんだと思う。
「さてさて、そろそろ話してくれる気になりましたか?」
「......話さないとこの手、離してくれないんだろ?」
「ふふっ。なんだかややこしいこと言いますね」
そうなんですけど、と釘を刺して再び力強く
フラれた理由。不登校になった過去。凛子が転校してきたわけ。そして昔から変わらない凛子の気持ち。
話し終えると黙って聞いていた美姫がポツリと「そうでしたか」と声を落とす。
「女性恐怖症になった
「全然笑えませんし、笑いません。......正臣くん、そんな顔して無理して笑わないでください」
見ているこっちが辛くなってしまいます、と消えそうな声で呟いた美姫が正臣にもたれかかる様に身体を預けてくる。
「おい......」
腕の中にすっぽりと収まった美姫に抗議の視線を向けるが、真っ赤な舌を出されるだけで離れようとしてくれない。
「この件、正臣くんも、
「......うん」
「これを受けて何をするかは正臣くんの自由です。そして私は正臣くんがしたい事を支えます。ですから頼って下さいね?」
「ありがと」
「なんか、素直な正臣くんはちょっと気持ち悪いです」
「......うっせぇ」
胸の中でクスクス笑う美姫から視線を離して正臣は再び大輪が華咲く夜空を見上げた。
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