9-1.早乙女さんのことは、諦めた方がいいんじゃないかな
「んー。風が気持ちいいねぇ」
海から吹き込む少し強めの潮風が、凛子の黒髪を
だが、凛子はそれほど不快じゃないようで目を細めつつ、髪を押さえて風を楽しんでいる。
しばらくの無言。
風と
「昨日は......なんかごめんね。急にあんなこと言われたら気まずくなるよね」
凛子が乾いた笑みを浮かべた凛子に首を横に振る。
「やっぱ、怒ってるよね?」
「いや怒ってないよ。てか謝るのはオレの方だろ」
「え?」
「ごめん。周りに
胸につっかえていた凛子への気持ちをするりと口に出来たことに驚くのと同時に、美姫の笑顔が頭をよぎる。
(またあいつに助けられちゃったな......)
昨夜美姫と話して過去の自分と向き合えたからこそ今の言葉を口に出来たんだと気づいてしまい、口の
(やっぱりあいつに会いたいな)
事あるごとに美姫のことを想ってしまう。
いなくなって、こんなにも美姫の存在が自分の中で大きくなっていることに気づいて、笑ってしまう。
「......なんか昨日の正臣とは別人みたい」
「そうか?」
「うん。昨日、私と話してた時の正臣はすごく辛そうだったから......」
「......まあ、なんつうか、辛くはあったよ。凛子にってより、自分自身に腹が立ってな」
「あの後、何かあったの?」
「まあな」
「どうせ早乙女さんでしょ?」
「うぐっ!?」
ズバリ指摘されて態度に出てしまった正臣に目を細めた凛子がつまらなさそうに「ふーん」と
「正臣はさ、早乙女さんのこと好きなんだよね?」
「は、はあっ!? なんでそんな決めつけで聞いてくんだよ!?」
「ちゃんと答えて」
真剣な凛子の眼差し。
どうやらはぐらかすことは出来なさそうだ。
正臣は凛子の眼差しから視線を逃して頭を
「好き、だと思う......」
「やっぱ、そうだよね......」
あーあ、と大きなため息を落とした凛子は正臣に背を向けて手すりにもたれかかる。
「ま、初めて二人を見た時から気づいてたけどねー」
「な、何をだよ」
「二人は両想いなんだろうなーって。特に早乙女さん、正臣のこと大好き過ぎるし」
「美姫がオレを好きっ!? な、なにを根拠に......」
「いやいや、クラスメイトのほぼ100パーセントがそういう認識だと思うけど?」
そんな事言ってんの正臣ぐらいじゃない? と少々、
(美姫がオレのことを好き......?)
嬉しいような、戸惑うような、不安なような......
どっどっと、強く脈打つ心臓を服の上から
「その上でこんな事言ったら、また嫌われるかもしれないんだけどさ」
様々な気持ちが心を駆け
「早乙女さんのことは、諦めた方がいいんじゃないかな」
「えっ」
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