8-3.早乙女財閥




「きゃーっ! 伏見くんが急にイケメン発言したんだけど!」



「茶化さないで下さい......」



「......ふーごめんごめん。お姉さん取り乱しちゃいました。美姫ちゃんが聞いたらきっと喜ぶのに残念ね」



 ニッコリと笑った結衣は強く息を吐いてしばらく目を閉じたかと思うと、真剣な面持おももちに変えて貫くような鋭い眼差しを正臣に向けた。



「伏見くん、わかってるわよね、今回の件の原因はおそらくあなた。そして相手は天下の早乙女財閥。あなたはそこに睨まれてる。桜花学院は早乙女家には当然歯向かえない。生半可な覚悟でたて突けば、学校にいれなくなるかもしれません。そのリスクを犯してでも......」



「やります」



 結衣が言い切る前にはっきりと断言する。


 どんなに心を揺るがされようとも、例えリスクを犯してでも、この気持ちは変わらない。



「美姫に、どうしても会いたいんです」



 例えそれが少しの時間であったとしても。



「ん〜! なんか急に男の子らしくなっちゃって! このこのぉ!」



 にまにま顔で近寄ってきた結衣がいつも通りひじで脇腹をぐりぐりしてくる。



「いててっ......やめて下さい! 会長!」



「よーし! そうと決まれば作戦考えなくっちゃ! 名付けて、美姫ちゃん救出大作戦! ふっふっふー。相手は天下の早乙女財閥......腕がなるわぁ。早乙女財閥に九条院の力見せつけてやるんだから!」



 ひとり拳を天に掲げた結衣が不気味な笑みをたずさえて、スマホを耳に当ててリビングから出ていく。


 取り残された正臣と凛子。


 昨日のこともあってか、空気が重たくて話しかけにくい。リビングに置いてある巨大な振り子時計が刻む秒針の音だけが部屋に響く。



「ねぇ正臣」



 重苦しい沈黙を破ったのは凛子だった。



「ちょっと話してもいい?」



 凛子が指差した先にあったベランダに視線を向けて正臣は首を縦に振ってソファから腰を浮かせた。

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