3-1.カップラーメン





「す、すごいです......」



「あんまり自慢できるものでもないけどな」



 キッチンに備え付けられた棚の一角。


 所狭しとカップ麺が敷き詰められた棚の一角を見た美姫が、エメラルドグリーンの瞳を無駄に輝かせた。


 ちなみに正臣の母はカップ麺信者みたいなところがあって、コンビニの新作なんかも買い漁っているので、変わり種なんかも結構混じっていたりする。


 とりあえず棚に入っていると見ずらいと思うので、美姫が見やすいように棚から出してキッチンのちょっとしたスペースに並べてみた。



「カップ麺っていっても、ラーメンや焼きそば、うどんや蕎麦、混ぜそばなんて物もある」



「混ぜそば......」



 あごに手を当てて、ジッと並べたカップ麺を品定めする美姫に正臣はおかしくなって吹き出してしまう。



「な、なんですか?」



「いや、いつになく真剣そうだからおかしくて......」



「だ、だって、こんなに沢山並んでるので悩んでしまって。ま、正臣くんが悪いんですよ? 一度にこんなに沢山持ってくるんですから!」



 どうやら少し怒ったみたいで、わかりやすく頬を膨らませて目を細めた美姫に「ごめんごめん」と謝ってなだめつつ、再びカップ麺の群れに視線を戻す。



「そんなに悩むんなら、二個選んだらどうだ?」



「二個ですか? そんなに食べられるでしょうか?」



 カップ麺を二つ手に取って、眉を八の字に曲げて見比べながら唸る美姫に再び吹き出す。



「だからなんで笑うんですかっ」



「違う違う。二つ食べるんじゃなくて、オレが食べる分も決めてって意味。そしたら二つの味、楽しめるだろ?」



 半分こだ半分こ、と口にしながら王道っぽいカップ麺を見繕みつくろう。



「.........うう」



 聞こえた小さなうめき声。次いで感じた背中への衝撃。



「.........たまに正臣くん、ずるいです」



 正臣の背中に顔をうずめているのだろう、グリグリと背中に顔を擦り付けながらポソポソと呟く美姫の唇がくすぐったい。



「おい美姫......」



 Tシャツ一枚越しに伝わる美姫の体温。


 急激に加速する心臓が苦しい。



「正臣くん、ドキドキしてます」



「あ......当たり前だろ? そんなに、くっついてんだから」



「正臣くんのせいですよ?」



「なんで!?」



 つっこんだ所で背中から体温が遠ざかる。


 振り返ると、美姫にちろりと赤い舌突き出されてしまう。



「くっついた理由がわからないからです」



「は?」



「でも......ありがとうございます」



「......ごめん、意味わかんないんだけど」



 理由はわからんが、ふわりと笑った美姫は嬉しそうなので、正臣は頭をいて再びカップ麺に視線を落とした。



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