2-3.伏見家にようこそ




「当たり前だ。......あ」


 

 急に正臣のお腹から情けない音が鳴って顔が熱くなる。


 きょとんとした美姫の視線が部屋にある掛け時計についっと移る。



「もう結構いい時間ですものね。お腹も空くわけです」

 


「......という訳だから帰ってくれ」



「正臣くんはこの後何食べるんですか?」



「まあ、外行くのもダルいしカップラーメンでも食べようかなって思ってるけど」



「カップラーメン......」



 呟いた美姫のただでさえ大きなエメラルドグリーンの瞳が見開かれる。



「なんだよ?」



「私、一度も食べた事ないんです」



「え、それはさすがに嘘だろ?」



 とは言ったものの、目の前の美姫の表情は、とても嘘を言っているものとは思えない。


 正臣は一つため息をつく。


 こんな期待する視線を向けられて、断わる白状者がこの世にいるのだろうか。



「......なら、食べてく?」



 提案すると同時に、不安げだった美姫の表情が花が咲いたよう明るくなる。



「いいんですか!?」



「まぁ別に大したもんじゃないしな」



 待ってろ、と言って背を向けて少し考える。


 正臣家は両親が共働きという事もあってか、カップ麺に助けてもらう機会が多々あり、常にまあまあの量と複数のラインナップが取り揃えてある。


 一口にカップ麺と言っても色々ある。


 美姫の舌は一般人より敏感だと思うし、勝手に決めるのはどうなのかと思ってしまったのだ。


 それに初めてのカップ麺なら、作るのを見るのも面白いのかもしれない。


 再び振り返った先、不思議そうな視線を向ける美姫がこっくりと首をかしげる。



「どうかされましたか?」



「や、その、よかったら作ってみる?」



「はい! ぜひ!」



「おう。じゃあついてきてくれ」



 気合の入った返事をした美姫を引き連れ、正臣はキッチンへ向かった。

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