13-1.ファッションショー




「さー始めまりました! ファッションショー!」



 訪れたお店で結衣がテンション高く、イェーと握ったこぶしを突き上げる。



「夏も近いですから、そろそろ夏服が欲しい。そんな季節ですね、伏見くん?」



「はあ、そういうもんなんですかね?」



「女の子はそういうものなんです! という訳で、美姫ちゃん凛子ちゃん、張り切って夏物の試着をお願いします! 審査員はもちろん伏見くんです!」



 妙にやる気を感じる美姫と凛子の表情に何をすればいいのかと焦っていると、結衣が柔らかい笑みを送ってくれた。



「そんな心配そうな顔しなくていいのよ? 審査員なんて名ばかりで、二人が着てきた服にコメントしてくれればいいだけだから」



「そういうことですか。それくらいなら出来そうです」



「ふふっ。伏見くんって、変なところで真面目よね。嫌々でも頼まれたら絶対仕事やり遂げてくれるし」



 ニッコリと笑った結衣の手が正臣の頭に伸びてくる。



「偉い偉い」



 ポンポンと頭をでられ、心臓がバクンと大きく脈打ったので慌てて結衣から距離を取る。



「ちょっとやめて下さい。恥ずかしいです......」



 やけに迫力のある視線を送る二人に気づいているのか気づいていないのか、表情を全く変えることなく結衣が二人の方に向き直る。



「という訳で、二人とも服が決まったら声かけてね」



 頷いた二人がお店の中に消えていくのを見届けて、改めてちゃんとコメントができるか不安になる。


 ジャンルの違いこそあれ、二人の服のセンスは高いと思う。


 正臣の意見なんて必要なのだろうか。どう考えても必要と思えないのだが。


 そんなことを悶々もんもんと考えていると不意に背後からくいくいとシャツを引っ張られた。


 振り返った先にいたのは美姫で、その表情はなぜか不安げだ。



「どうした?」



 何かあったか、と聞いてみても、なにか言いたげな顔をうつかせてるだけで何も言ってくれない。


 突然やってきた妙な沈黙に居心地の悪さを感じていると、シャツを掴んだまま固まっていた美姫がゆっくりとおもてを上げた。


 頬をほんのりと赤く染め、上目遣い気味に正臣を見上げた美姫が、今にも消えそうなか細い声を上げる。



「......あの、正臣くんって、どんな服が好きなんですか?」





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