16.二人だけの夏祭り




「はあ......すげぇなこれ......」



 昼と夜が切り替わる薄暮はくぼの時間。


 煌々こうこうと輝くオレンジの提灯ちょうちんの明かり、お囃子はやしの音。


 本当にプレオープンなのかと疑ってしまうような本物の祭会場の雰囲気に、正臣の口から思わず声が漏れてしまう。



(完全に服装ミスったな......)



 擬似ぎじ祭会場には、正臣と同じモニター役と思われる人達の姿をちらほらと見受けられるが、男性も女性もみんな浴衣姿だ。


 正直、プレオープンをあなどっていた正臣は事前情報をくれなかった結衣を内心恨みつつ、周りを見渡す。


 すると鳥居の柱の辺りで、一際目を引く金の髪が目に留まる。



 心臓が、とくりと跳ねる。



 普段下ろして後ろに流しているブロンドの髪を編み込んでお団子にまとめた美姫は、淡いピンクの浴衣姿で、不安げな表情をたずさえて、誰かを探すように視線を泳がせている。



 心臓の鼓動がいつものように加速していくのに、いつも感じる苦しさがない。



(なんだ、これ......)



 照れている、のはそうなんだろう。


 だが初めて感じるこの感覚がなんなのか、正臣にはわからなかった。



「あ、正臣くん」



 正臣に気づいた美姫が草履ぞうりをパタパタ言わせながら駆け寄ってくる。


 表情は、頬を膨らませて不満げだ。



(平常心平常心......)

 


 よくわからないこの感情を押し込めて、なるべく自然に、いつもみたいに美姫にあいさつする。



「よう」



「見つけたなら、早く声かけて下さいよ。さっきから色んな人に見られて不快でした」



「すまん」



「あー、ひょっとして、私の浴衣姿に見惚れてました?」



「へっ!?」



「っ!? ......ちょっと、急にそんな顔しないでください......」



 意地の悪そうな顔で詰め寄ってきた美姫の顔が赤く染まり、しおらしく俯いてしまう。


 そんな顔がどんな顔なのか、自分でもわからなくて気になるが、今の美姫と同じような顔になっているんだろう。


 そう思うと、更に恥ずかしさが込み上げて正臣もたまらず視線を下に向ける。



「す、すまん......」



 騒がしいお囃子の音。少しの間。


 上目遣い気味に見上げた美姫の白亜はくあの肌を淡いオレンジのあかりが照らす。



「......あの、その......浴衣......変、じゃないですか?」



「変じゃない。変、というか......」



「というか?」



「その、綺麗だと、思う......」



「そう、ですか......ふふっ。よかったです」



 柔らかく目を細めた美姫が正臣の手を取る。



「お祭り、楽しみましょう」



「おう」



 手を取る美姫に連れられて、正臣はオレンジの光煌きらめめく鳥居の奥に進んで行った。



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