17-1.金魚すくい



「正臣くん、屋台がいっぱいありますよ!」



 美姫は、はしゃいでいた。


 花が咲いたような笑顔を振り撒いて、手当たり次第屋台を覗き込んでいる。


 そんな純粋無垢な子どもみたいな美姫の姿はやはり周りの気を引くようで、特に男性が視線を送っているのがよくわかる。



(なんだろう......なんか、モヤモヤする?)


 

「正臣くん! 金魚がたくさんいますよ!」



 美姫に視線を送る男達に無意識のうちに睨みをかせてしまった正臣は、しゃがんで手招きする彼女の隣に座ってうつむく。


 なんというか、自己嫌悪。辺りの男性に睨みを効かせてしまったことがとても恥ずかしい。



「どうしたんですか?」



「......いや、なんでも。てかすげえ楽しそうだな」



「楽しいですよ。こういうお祭りに参加するの初めてなんです。私の家、結構厳しくて、夜の出歩きは禁止されてまして」



 美姫の身内の気持ちもなんとなくわかる気がした。

 

 浮世離れした美姫の外見は良くも悪くもとても目立つ。


 夜になれば気を大きくした変な男性に話しかけられたり付きまとわれる可能性もあるだろう。



「今日も心配されたんですけど、今日は生徒会の仕事で、信頼できる方と一緒だから大丈夫ですと言って出てきたんです」



「ふーん......」



 今日はいつになく心臓が、うるさい。



「正臣くんは、楽しくないですか?」



 長いまつ毛を伏せて、少しだけ悲しさをともした声でつぶやく美姫に慌てて首を振る。



「や、そんなんじゃない。その、なんていうか......」



「なんていうか?」



 美姫のせいでさっきから心が定らない、なんて言えるわけがなく、はぐらかす様に咳払いして、金魚すくい屋台のおじさんの方に視線を逃すと人懐っこい笑みを向けられた。



「お兄ちゃんやってくかい? 可愛い彼女さんにいいとこ見せなきゃなぁ!」



「かのっ!? ち、違います!」



「がははっ! 照れんな照れんな! 今日はプレだから無料だよ! 気合い入れて彼女さんにとってあげな!」



 なんというか、このおじさんには何を言っても照れ隠しと取られてしまいそうだ。


 観念して隣にしゃがむ美姫の方に再び視線を戻す。



「っ......」



 なぜか顔を逸らされてしまうのだが、その理由を美姫の真っ赤な耳が教えてくれた。


 正臣同様、おじさんの言葉に照れているんだろう。



「......おい、耳赤いぞ」



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