15-1.急募! 恋人役モニター




「お願い! 正臣くん、力を貸して!」



 香り高いコーヒーを一口堪能たんのうした正臣は、手を合わせて頭を下げる会長に微笑えみかける。



「イヤです」



「酷い! お姉さんがこんなにもお願いしてるのに!」



 明らかに嘘泣きとわかる素振そぶりをする結衣が、正臣の淹れたコーヒーを飲む美姫に抱きつく。



「正臣くん、酷過ぎます」



 軽蔑するような美姫の眼差しを正臣は鼻を鳴らして弾き返す。



「あまりにも高頻度過ぎんだろ」



 ダンスパーティの準備をした事はまだ記憶に新しい。


 あれからまだ一ヶ月も経っていないというのに、非生徒会員である正臣に頼むのは納得出来ない。


 そんな正臣の心情を察したのか、美姫が大きめのため息をこぼした。



「だから何度も言ってるじゃないですか。早く生徒会に入ってくださいって」



「だから何度も言ってるだろ。オレは生徒会に入るつもりはないって」



 美姫と睨み合っていると、泣き真似をしていた結衣があら、と呟いて小首を傾げた。



「そういえば美姫ちゃん、また嫌いなのにコーヒー飲んでるの? ほんと律儀ねー」



「......いつの間に結衣さんは私の敵になったんですか?」



「やーねー! 味方も味方に決まってるじゃない。そういえば、伏見くんにお願いしたい案件について具体的に説明してなかったわね」



 美姫から離れた結衣は会長席の机の上からA3サイズのポスターを持ってきて正臣と美姫に突きつける。



「桜花神社、夏祭り?」



 音読してみて全くいいイメージがかず、結衣に向ける目を細める。



「ちょっと伏見くん、説明前にそんな顔しないでくれるかな? 毎年八月に桜花学院の近くの桜花神社で夏祭りがあるんだけど知ってる?」



「まあ、話し程度には」

 


「結構な規模のお祭りでね、桜花学院もボランティアって形でお祭りに協力しているの」



「......じゃあ、自分はこの辺りで失礼します」



 まだコーヒーを飲み切っていない事に若干の罪悪感があるが、それどころではない。


 鞄を抱えて席を立ったところで笑顔の結衣に肩を掴まれてしまった。



「最後まで話を聞いて! 伏見くん!」



「イヤです! 絶対面倒ごとじゃないですか!」



 夏休み返上で人のあふれ返る祭りのボランティアに参加するなんて死んでもお断りだと全力で首を左右に振ると、結衣が「違うの!」と声を上げたので一旦落ち着く。



「やって欲しいのはそのボランティアじゃなくって、今週の土曜日にある夏祭りプレリリースのモニター役なの!」



「プレリリースのモニター、ですか?」



「そ、モニター。そのモニター役の指定が高校生の男の子ってなってて困っちゃって......ちなみに、モニター役はプレで出てる出店屋台全て食べ放題遊び放題! そして後日簡単なアンケートを作るってだけの仕事よ。どう? ちょっと楽しそうじゃない?」



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