18-4.半分こ




 そんな理由であーんされるのはなんというか困るのだが。



「食べてくれないんですか? ......やっといてこんなこと言うのなんですが、この格好結構恥ずかしいんですけど......」



 だったらやるなよとツッコミたくなるのだが、頬を赤らめる美姫の表情が正臣の心音を加速させ、そんな余裕を軽々吹き飛ばしてしまう。


 間接キス。


 拒否は、出来そうにない。


 こんな、耳まで真っ赤にする照れる姿を見てしまっては。


 腹をくくって差し出されたたこ焼きを一口で口に含む。



「どうですか?」



「......熱い」



 買ってしばらく経ったたこ焼きは、本当は全然熱くない。


 緊張のせいか味が分からなくなってしまい、咄嗟とっさに口から嘘がこぼれる。どうせ、後で美姫が食べたらバレてしまうのに。


 そう思うと無性に恥ずかしくなってくる。



「ふふっ。顔、真っ赤ですね」



「......うっせぇ」


 

 いつも通りの正臣くんです、と意地悪そうに笑う美姫が悔しくて、つまらない嘘を隠蔽いんぺいするために全部のたこ焼きを平らげる。



「熱いのにそんなペースで食べられるなんて不思議ですね」



「うぐっ!?」



「ほんと、わかりやすい人」



「......悪かったなぁ」



 たこ焼きを飲み下した正臣は、微笑む美姫から目を逸らし、口直しに綿菓子を口に含んだ。


 久しぶりに食べたそれは、甘ったるさを口の中に残して溶けて消えた。

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