19.祭の終わりに




「終わってしまいましたね」



 桜花神社の鳥居の前、美姫が寂しげにぽつりと言葉を落とす。


 始まる前、煌々こうこうと輝いていたオレンジの提灯ちょうちんの明かりも今は鳴りをひそめ、正臣の気持ちにもぽつりと寂しさをにじませる。



「本当ならこの後打ち上げ花火があるみたいなのですが......」



「それは本番のお楽しみって訳が」



 流石にプレオープンで打ち上げ花火はコストがかかり過ぎるし、近隣住民に迷惑をかけてしまうという事なんだろう。



「この後どうするんだ?」



 他のモニターの人達も帰路についているようで辺りの人気もまばらだ。


 街灯がいとうはなくはないのだが、夜も深くなりつつあり、女子が一人で歩くには少し心許なく感じる。



「もしあれなら送ってくけど?」



「ありがとうございます。私は大丈夫です」



 申し訳なく微笑んだ美姫が向けた視線の先には暗闇でも異彩を放つ黒塗りの高級車が止まっている。



「迎え、頼んでたのか。なら安心だな。じゃあまた学校で」



「あ、正臣くん」



「ん?」



 ひらりと美姫に手を振って数歩進んだところで美姫に呼び止められて振り返る。


 やはり、暗がりは深いようで少し離れただけで美姫の顔が見えづらくなってしまう。



「今日は、ありがとうございました。初めての経験がいっぱい出来て、楽しかったです」



「オレも楽しかったよ。こっちこそありがとな」



「あの......そ、その......」



「どうした?」



「もし、よかったら今度は一緒に、花火まで......」



「ん?」



 若干距離があると言うのに、ぽそりとつぶやくように話すので、上手く聞き取れずに聞き返す。



「.........やっぱりなんでもないです」



「美姫?」



 あまり聞いたことのない寂しげな声のトーンに、思わず歩み寄ろうとするが金魚袋を掲げた美姫にそれを制される。



「なんでもないです! デメちゃん、大事にしますね。それじゃまた学校で!」



「お、おう。またな」



 なんだ声出るじゃん、と独り言をこぼした正臣は美姫に背を向けて駅へと向かって歩きはじめた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る