5-1.お嬢様 vs 幼馴染




 朝のホームルーム後の休み時間。


 男女問わず多くのクラスメイト達が凛子を質問攻めしていた。


 美姫の言う通り転校生が珍しいって事もあるのだろうが、聞こえてくる質問から察するに、理由はそれだけではなさそうだ。



「白壁さんの髪とっても綺麗だね。いったいどんなケアしたらそうなれるの?」



「特別なケアはしてないよ。美容室でオススメされたシャンプーとリンスを使ってるだけ。紹介しよっか?」



「白壁さん彼氏いますか!?」



「ふふっ。いないでーす」



 矢継ぎ早に質問するクラスメイト達に笑顔で回答する凛子は、初恋補正抜きにしても美人だと思う。


 凛子の彼氏いない宣言に浮き足立つ男子生徒達をぼけっと眺めていると、不意にシャツの袖をくいくいと引っ張られた。



正臣まさおみくん、白壁さんにあいさつしなくていいのですか? その......幼馴染、なんですよね?」



 袖を引っ張られた先にいた美姫の表情は不安の色がにじんでいる。


 そんな美姫に正臣は平然を装っておどける様に肩をすくめた。



「話したろ? オレにとってあいつはトラウマの塊みたいなもんだ。幼馴染だろうが、わざわざこっちから絡みになんていかないよ」



「ですけど......」



「あら、つれない事言うじゃないの正臣」



 人の石垣に囲まれていたと思っていた凛子がいつの間にか正臣の机の前に立っていた。



「久しぶりね」



「凛子......」



 昔と変わらない自信と気の強さを感じさせる少し吊り上がった瞳で見下され、思わず視線をうつむかせる。



「昔馴染みでしょ? 仲良くしましょうよ」



 俯いた視線の先に差し出された凛子の手を黙って見つめる。



「え? 白壁さんと伏見くん知り合いなの?」



「幼馴染って言ってたぞ」



 凛子と正臣のやり取りを見守っていたクラスメイト達が当然のようにざわつき始める。


 ぼんやりしていた昔の記憶が凛子の声でーークラスメイト達の声でくっきりとした輪郭りんかくを帯びていく。



 胸が、苦しい。上手く呼吸が出来ない。



 心の奥底で栓をしたドロドロとしたあの記憶がジワリとあふれてくるのを感じる。


 環境を変えて少しは昔のトラウマを乗り越えられたと思ってたのに結局この様だ。


 三年も経つのに昔と何も変わらない。


 その事実を凛子にあっさりと突きつけられた事が悔しくて、辛い。



「大丈夫ですよ。正臣くん」



 肩に触れた柔らかな温もり。


 俯く顔を上げた先にあったのは、相変わらず浮世離れしたエメラルドの双眸そうぼうと柔らかな笑顔。


 置かれたてのひらが優しく正臣の肩をでる。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る