5-2.お嬢様 vs 幼馴染




「美姫......」



「なんなのあなたは?」



 不機嫌を存分に含ませた声を発する凛子が差し出す手を正臣に代わって美姫が取る。



「初めまして白壁さん。早乙女美姫です。よろしくお願いします」



「ちょっとあなた、あたしは正臣にあいさつしようと......」



「あら、それは失礼しました。白壁さん、正臣くんの幼馴染なんですよね?」



「名前呼び......あなた、正臣と親しい関係なのかしら?」



「ええ。親しいと思いますよ。ほら」



 ふわりとただよう花の香り。腕を包む温かい体温。感じる確かな柔らかな感触。


 クラスメイト注目の中、美姫が突然腕に抱きついたのだ。



「こんな事くらいなら気軽にできる関係です」



「......へー」



「ちょっ、おまっ!? な、なにやってる!?」



 心臓が爆発してしまう。


 抜け出そうと腕を動かすたびに美姫のブロンドの髪が揺れて例の花みたいな香りが鼻腔びこうくすぐり頭がクラクラする。


 だが問題はそれじゃない。


 布越しでもはっきりわかる柔らかいものが腕に当たるたびに自在に形を変えている。


 それに気づいているのか気づいていないのか、隣の美姫の頬はほんのり赤かった。



「そんなに慌ててどうしたんですか正臣くん。こんなのいつものことじゃないですか?」



 クラスの女子からは冷ややかな視線。男子からは怨念じみた視線に気づいた正臣は開いた方の手と首を全力で振って否定する。



「断じてない! 嘘だから!」



 訴えてもクラスメイトの視線は変わらない。確実に誤解されている。



「......あなた達の関係、詳しくお聞かせ願えるかしら」



 凛子の額がピクリと動くのと同時、休憩時間に終わりを告げるチャイムが鳴る。



「あら。次の授業が始まるみたいですね」



「うぐっ。じゃあまた後で......」



 明らかな不満を引っ提げて席に戻っていく凛子をボーッと見つめていると、美姫に鼻をちょんっと触られた。

 


「大丈夫ですから」



「......何がだよ」



 気づけばさっきまで心を覆っていた昔のトラウマの記憶が嘘のように薄れている。



「昔はいれませんでしたけど、今は私が側にいます」



「......なんだそれ。てか離れろよ」



「ふふ。このまま授業受けちゃいますか?」



「また先生に怒られるわ!」



 腕に抱きつく美姫を引き剥がして机から授業で必要な道具を急いで取り出す。



「よかった。すっかりいつもの正臣くんです」



「ふん」



 柔らかな声で話す笑顔の美姫を直視出来なくて窓の外に視線を移す。



「......ありがと」



 窓のガラス越しに見えた微笑む美姫のエメラルドの瞳と目が合った。そんな気がした。

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